コロナ対策で世界の財政は崩壊しない:KAMIYAMA Report(2/2 ページ)
政府財政の悪化がどのくらい許されるのか、という問いに、明確な答えは見当たらない。しかし、インフレあるいは期待インフレ率の上昇により、人々の期待もそれに追随する傾向にある。アフター・コロナの時代は、財政政策が重要となり、5〜10年の単位で見れば、再び金利上昇トレンドに転ずる可能性がある。
長期的に金利が緩やかな上昇トレンドになる可能性はある
さて、財政出動で金利が上昇するもうひとつの経路が、インフレあるいは期待インフレ率の上昇によるものだ。インフレが現実に見られるようになると、人々の期待もそれに追随する傾向にある。
例えば、米国金利の動きを見ると、1960年代から1970年代にかけて、金利は上昇トレンドを形成している。これは、ケインズ的政策が選挙で選ばれる大統領や議員に好まれ、景気変動に対応する財政政策が頻発したことによるとみられる。
しかし、1970年代のオイル・ショック前後の急激な物価高で企業活動に支障が起こり、その反省から中央銀行が政府や議会から独立して景気対策を行い、インフレと戦うことになった。政府予算の役割は、構造改革や成長戦略に絞られた。
1980年代にフリードマン的政策(インフレを抑えるためにマネーを減らす)が広く受け入れられ、その後も、基本的には景気過熱の調整とインフレとの戦いは金融政策、社会保障・教育・成長戦略を財政が受け持ってきた。そうした中で、金利低下が続いた。
しかし、アフター・コロナの時代は、財政政策が重要となり、5〜10年の単位で見れば、再び金利上昇トレンドに転ずる可能性がある。
金融政策では、緊急時の銀行システムの支援が重要で、財政による消費の支援とともに実行されるだろう。景気が悪化する時に金利を下げる政策は、金利水準がゼロ近辺という状況で、企業の設備投資を支援する力にはならない。景気対策としての財政の重要性が復活する論理が強まる一方、インフレ傾向の中で銀行システムに不安がなくなれば中央銀行も低金利政策を続ける必要はなくなるだろう。ただし、弊社の米国長期金利見通しは1.25%、FF金利は0.25%(いずれも2021年3月)で、金利上昇はそう簡単には起こらないと予想している。
もちろん過去と同じで、選挙で選ばれる政治家の恣意が強まる先進国では、インフラ投資の必要性が限定的であるといった問題も残る。しかし、米国大統領選の民主党候補を決めるプロセスでサンダース氏が善戦した理由は、若年層の「格差拡大と固定」への対応を求める声だった。健康保険を含む社会保障の充実を社会民主主義者に求める動きは、遅かれ早かれ先進各国で強まりそうだ。
ウイズ・コロナで政府の緊急支援が当然となったことで、アフター・コロナでも引き続き政府の観光や外食を含む消費への積極介入(クーポン配布など)が出てくるだろう。その帰結は、これまでとは逆に、インフレ期待が高まり、物価や金利が上昇する可能性が高まることになる。まだ仮説でしかないが。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
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