「日本人なら国産」のこだわりが、”マスクパニック”を再燃させてしまうワケ:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
「ドラッグストアでマスクを買うことができたよ。『MADE IN CHINA』だけどね」といった人が増えてきたのでは。その一方で、「マスクは国産でなければいけない」という人もいるわけだが、こうした考え方に筆者の窪田氏は警鐘を鳴らしている。なぜかというと……。
なぜ「物流軽視」したのか
このようなサプライチェーンのリスクマネジメントこそが、実はコロナとの「戦争」において最も重要だ。
著名な戦史家、マーチン・ファン・クレフェルトは、『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と述べている。
「兵站」とは前線の部隊に食料や武器などを供給する後方部隊のこと、要はサプライチェーンだ。クレフェルトの言葉は「戦争」の本質をついている。日本が先の戦争で負けたのもつきつめていけば、サプライチェーンの敗北だ。旧日本軍の兵站(へいたん)は馬車が中心で、大量輸送できるトラックが少なくあまり稼働していなかった。結果、最前線の兵士たちに物資が届かなかった。事実、230万人といわれる軍の戦没者の6割以上の140万が「餓死」だったといわれている。
では、なぜ日本はそんな「物流軽視」をしてしまったのかというと、「国産」への強いこだわりが物流構築を妨げたからだ。
陸軍は早くから兵站の自動車輸送化に注目していたが、純国産での自動車開発にこだわった。戦争が長期化した場合、国内で技術開発ができなければ連合国には勝てない。そのような考えから、自国内ですべて完結できるような自動車工業を育成していた。考え方は素晴らしいが、当時の日本の技術はその理想を実現できなかった。その結果が自動車化の遅れにつながってサプライチェーンの敗北を招いたのである。
つまり、「戦争」というシビアな現実の中で「理想」にこだわり続けたことで、すさまじい数の犠牲者を生んでしまったのだ。
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