「ブランク」や「ドロップアウト」は無意味ではない いま見直すべき、「採用の常識」とは?:「能力適合型社会」から「能力発見型社会」へ(3/5 ページ)
就職や転職の際に、多くの企業が重視するのが、その人材が社会や企業の求める能力や規範に合致しているかどうかという点だ。そのため、規範から外れていたり、「ブランク」や「ドロップアウト」の経験があったりする人が生きづらさを感じることも少なくない。ビースタイルホールディングスの調査機関「しゅふJOB総研」の所長を務め、「人材サービスの公益的発展を考える会」を主催する川上敬太郎氏は、こうした社会を「能力適合型社会」とし、一人一人の能力の方へ着目する「能力発見型社会」への移行を提唱する。
適合できない人を「自然の摂理」で片付けていいのか
また、中には社会・企業が求める能力を発揮しづらい人もいるでしょう。例えば、誰もが日常の中で使用するツールの一つである電話。しかし、発達障がいによって電話応対が苦手な人もいます。
社会が求める能力に適合することを前提にする「能力適合型社会」は、確かに合理的である反面、適合できない人を切り捨ててしまうという負の側面もあるのです。それが自然の摂理だ、と考える人もいるかもしれません。しかし自分自身や家族、友人といった大切な人たちが社会的に不利な立場に置かれた場合、「自然の摂理」の一言で簡単に片付けることなどできないはずです。
もし、能力適合型社会では不利な状況にある人でも、自身の持てる可能性に目を向けることができれば、社会に新しい活躍の場が生まれるはずです。その結果、これまでは活用できなかった人材の知られざる力によって、社会も新たな発展の機会を得ることができるのではないでしょうか。
先述の、発達障がいによって電話応対が難しいような人であっても、それ以外の可能性に目を向ければ、能力を発揮する機会が増えてくるはずです。例えばデータの入力やチェック、対面での接客や調理、プログラミングなど、電話応対以外でも能力を発揮できる仕事はたくさんあります。筆者自身、実際に発達障がいがありながら活躍している人たちを何人も知っています。しかしながら、能力適合型社会ではなかなかこのような発想になりづらい面があります。そこで、世の中が「能力を発揮できる機会」を積極的に見つけようとする「能力発見型社会」になっていけば、まだ見ぬ才能が次々に見つかっていくようになるのではないかと考えます。
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