「ブランク」や「ドロップアウト」は無意味ではない いま見直すべき、「採用の常識」とは?:「能力適合型社会」から「能力発見型社会」へ(4/5 ページ)
就職や転職の際に、多くの企業が重視するのが、その人材が社会や企業の求める能力や規範に合致しているかどうかという点だ。そのため、規範から外れていたり、「ブランク」や「ドロップアウト」の経験があったりする人が生きづらさを感じることも少なくない。ビースタイルホールディングスの調査機関「しゅふJOB総研」の所長を務め、「人材サービスの公益的発展を考える会」を主催する川上敬太郎氏は、こうした社会を「能力適合型社会」とし、一人一人の能力の方へ着目する「能力発見型社会」への移行を提唱する。
「適合」から「発見」へ
北海道に本社を構える北洋建設(札幌市)は、元受刑者や少年院出所者たちを積極的に雇用しています。同社のWebサイトには、少年院に3回入った経験のある人が同社を通じて仕事を修得して独立したことや、過去に罪を犯した社員たちが冬場に毎朝無償で近隣の除雪や融雪作業をしていることなどが記されています。
一般的に、過去に罪を犯してしまうと、社会が求める規範には適合できないと判断されて、会社に勤めることは難しくなります。しかし、こうして個々人の能力に目を向けられれば、これまでにはなかった活躍の場をつくり出すことが可能になるという実例です。
また過去を振り返ってみても、能力適合型社会では不利な立場の人が才能を開花させて活躍してきた例はたくさん存在します。
幼いころに視覚と聴覚を失ったヘレン・ケラーは、障がいがある身でありながら積極的に社会福祉活動を行い、いくつもの著書を残しました。自伝や映画などを通じて、世界中の人々が彼女の人生そのものに勇気づけられました。高学歴者がひしめく政治家の中で、元首相の田中角栄は高等小学校卒業と言われます。パナソニックの創業者であり、経営の神様と称される松下幸之助は尋常小学校中退、アップル創業者のスティーブ・ジョブズや科学者のアインシュタインは発達障がいがあったとも言われています。
もちろん、ここに挙げた方々は突出した才能を有する特別な人たちであることも確かです。しかし、能力適合型社会の合理性を超えて、能力を見いだされた存在であることは間違いありません。彼らのような天才的能力とまではいかなくとも、社会が能力の“適合”から能力の“発見”へと軸足を移していけば、秘められた才能がたくさん発見されることになるのではないかと期待します。
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