コロナで「減損先送り」が“合法的な粉飾決算”とならないために:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
コロナショックは、リーマンショックを上回る勢いで、企業の業績悪化を引き起こしているようだ。このような中、コロナショックのダメージを軽減させる措置が検討されている。在の会計ルールをより柔軟に適用することで、資本の目減りを防ぐ「減損会計の見送り」だ。
コロナショックは、リーマンショックを上回る勢いで、企業の業績悪化を引き起こしているようだ。トヨタ自動車は11日の決算発表会で、今期の営業利益が前期比約マイナス79.5%の5000億円となる見通しを発表した。
商社では、丸紅が2020年3月期決算で、過去最大の赤字を計上した。同社は、資源や機械といった事業の減損処理も響くかたちとなり、最終赤字は1974億円にのぼる。そして、営業再開の道筋が未だ判然としない百貨店業界では、店舗の減損処理が相次いでいる。三越伊勢丹ホールディングスは、5月の売上高が前年同月比でマイナス92.8%となり、営業再開見通しがたたないことを理由に、今期の業績予想公表を見送った。
業績悪化、最大の要因は「減損」?
このような状況のなか、金融庁に設置された「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」では、コロナショックのダメージを軽減させる措置が検討されている。その内容としては、現在の会計ルールをより柔軟に適用することで、資本の目減りを防ぐ「減損会計の見送り」が含まれていると一部で報じられているのだ。
減損とは、利益を生まなくなった工場や機械といった固定資産等の取得価格を、利益を生まなくなった度合いに応じて切り下げ、その分を損失として計算する会計処理である。
現行の会計ルール上は、営業を自粛した店舗や、操業を停止した工場は現時点で売り上げを生んでいないため減損となる。コロナショックによって多くの企業が一斉に赤字へ転落した背景には、これまでに投資した工場や事業等が停止したことが大きい。
三越伊勢丹ホールディングスの決算内容を詳しく見ると、20年3月期の経常利益は197億円と黒字となっている。しかし、店舗の閉鎖や、108億円の減損処理といった特別損失によって最終益が111億円の赤字となったのだ。
足元で急激に業績を悪化させている企業が増加している背景には、減損会計による損失が色濃く出ている状況だ。
減損会計の影響は、単に投資金額の一部または全部を損失として認識するのみにとどまらない。投資対象が将来生み出すと期待されていたキャッシュフローも、割り引いたうえで今後の事業を計画しなければならないため、銀行融資といった資金調達にも悪影響が及ぶ場合もある。
仮に、コロナによる影響を緩和するために「減損見送り」という措置が講じられれば、会計上は確かに業績の下支え効果は期待できるかもしれない。
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