コンビニやスーパーのレジで暴言 妻に先立たれた61歳元部長がクレーマーと化す現実:コロナ禍を機に考える「定年後の自分」(4)(2/2 ページ)
今回のコロナ禍では、一部の高齢者による地域社会でのモラルが皆無な行動に対し、「暴走老人」などといった批判が生まれ、新たな火種となりそうな状況です。医学博士の高田明和氏が、50代のうちに「定年後の自分」に早く向き合う必要性を事例とともにお伝えします。今回は、定年後に地域や家庭で孤立を深めていった男性の事例です。
男性は加齢により前頭葉の機能が衰え暴走しやすくなる
人間は加齢とともに感情をコントロールしにくくなってきます。これは年を取ると脳のなかで最初に感情をコントロールする前頭葉の機能が低下し、理性で抑えられなくなってくるからですが、前頭葉だけの問題ではありません。承認欲求が満たされないのも、大きく影響しているでしょう。前頭葉を鍛えるのなら、瞑想をしたり、運動をしたりするなど、有効な方法があるのですが、承認欲求を満たすのは、そう簡単にはいきません。
何かとマイナス面が取り上げられることが多い高齢者ですが、統計を見ても深刻さがうかがえます。例えば、「コールセンター白書2014」(リックテレコム)によると、コールセンターのクレームは60代以上が35.8%で断トツです。
暴力行為も問題になっています。JRや民営の鉄道各社が発表した、平成30年度(2018年4月〜19年3月)に発生した、駅係員や乗務員などの鉄道係員に対する暴力行為は630件でしたが、 60代以上が24.6%を占め、どの年代よりも多かったのです。この統計からも、キレる高齢者は決して少なくないといっていいでしょう。
敦史さんは弱い立場の人や反撃ができない人に対しての暴言を反省していますので、まだ救われるところがあります。
理想の自分を演じれば、気持ちに余裕が出てくる
人生をおろそかにせず、他人を傷つけず、社会を乱さない生き方がもっともよい、と私は思っています。暴言がやめられないとはいうものの、そんなことは敦史さんも十分に分かっていることでしょう。しかし、やめたいけど、やめられない。
では、どうすればいいのでしょうか?
私の場合、アメリカで牧師、著述家として活躍した、積極思考で有名なジョセフ・マーフィーの次の言葉を口ずさんでいました。
「現実の自分よりも、理想の自分を愛しなさい。そして、理想の自分で他人と接すれば、他人からも評価を受けます」
思いは必ず現実化します。敦史さんもこの言葉をつぶやき、役者になったつもりで、この言葉通りの行動をしてみるといいでしょう。役者にとって大切な要素は、自分の感情をコントロールすることです。役者を目指して自分の感情をコントロールするよう心掛けているうちに、普段でも感情のコントロールができるようになった人を、私は知っています。
最初は自意識が邪魔をして、抵抗があるかもしれませんが、他人から評価されるようになるので、やってみる価値はあります。いくらか承認欲求も満たされるでしょう。ゲーム感覚で演じてみればいいのです。
このほかにも、『定年を病にしない』や他の既刊の中でも触れていますが、理想の自分に合った言葉が見つかれば、その言葉の通り行動してみるのもいいでしょう。言葉だけでなく、好きな役者や歴史上の人物でも構いません。この人なら、どんな行動をするだろうかと考えて行動するのは楽しいものです。気持ちに余裕が出てくるでしょう。
敦史さんの場合、寂しいながらも悠々自適の生活を送っているわけですから、暴言さえ治まればイライラすることは激減するかと思います。そのためにも理想の自分を演じることが近道です。他人から評価されるのはうれしいことですので、暴走から遠ざかることができるでしょう。人とのコミュニケーションも楽しくなってくると思います。
――「定年後の自分」を考えるヒント――
- 定年後、最も深刻なのは「孤独」の問題であり、孤独が暴走の引き金になる。統計的にも暴走老人が決して少なくなく、事件にまで発展しやすいことを理解しておく。
- 人間の行動を調節し、極端に走らないようにしているのが前頭葉の働きである。年を取ると、前頭葉の機能が低下するので、暴言を吐いたり、他人と言い争ったりしがち。前頭葉はストレスに弱いので、自分の好きな言葉をつぶやいたり、好きなことを趣味にしたり、理想の自分を演じたりするなどして、常に気分を明るくするように努める。
著者プロフィール
高田明和(たかだ あきかず)
1935年静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。医学博士。米国ロズエル・パーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を歴任後、現在同大学名誉教授。専門は血液学、生理学、大脳生理学。日本生理学会、日本血液学会、日本臨床血液学会評議員。脳科学、心の病、栄養学、禅などに関するベストセラーを含む著書多数。最近はマスコミ・講演で心と体の健康に関する幅広い啓蒙活動を行っている。自身もうつやHSP(超敏感気質)に長年苦しみ、HSPを扱い紹介した『敏感すぎて困っている自分の対処法』(監修、きこ書房)は日本での火付け役となり、話題を呼んだ。最近の著書に『「敏感すぎて苦しい」がたちまち解決する本』『HSPとうつ 自己肯定感を取り戻す方法』『HSPと発達障害 空気が読めない人 空気を読みすぎる人』(いずれも廣済堂出版)がある。
関連記事
- コロナ禍を機に考える「定年後の自分」 62歳元部長が地域で悪態をつき孤立する現実
「朝、店頭に並べない現役世代を尻目にマスクを買いだめする老人」「本当は在庫を隠しているのだろうと店員に食い下がる高齢男性」「列に割り込み、注意した人に暴力を振るう70代男性」……。今回のコロナ禍では日本全体が緊張感につつまれるなか、一部の高齢者による地域社会でのモラルが皆無な行動に対し、「暴走老人」などといった批判が生まれ、新たな火種となりそうな状況です。医学博士が、50代のうちに「定年後の自分」に早く向き合う必要性を事例とともにお伝えします。今回は、定年後に地域や家庭で孤立を深めていった男性の事例です。 - 中高年引きこもり61万人の衝撃 62歳独身男性が「定年を機に引きこもる」現実
今回のコロナ禍では日本全体が緊張感につつまれるなか、一部の高齢者による地域社会でのモラルが皆無な行動に対し、「暴走老人」などといった批判が生まれ、新たな火種となりそうな状況です。一方で、高齢者がなぜそのような行動に走るのかを、自分の将来の姿に重ね合わせながら考えるきっかけにもなった人は多いのではないでしょうか。今回は、定年を機に家に「引きこもるだけ」の毎日を送る男性の事例です。 - コロナ禍を機に考える「定年後の自分」 62歳元部長が地域で悪態をつき孤立する現実
「朝、店頭に並べない現役世代を尻目にマスクを買いだめする老人」「本当は在庫を隠しているのだろうと店員に食い下がる高齢男性」「列に割り込み、注意した人に暴力を振るう70代男性」……。今回のコロナ禍では日本全体が緊張感につつまれるなか、一部の高齢者による地域社会でのモラルが皆無な行動に対し、「暴走老人」などといった批判が生まれ、新たな火種となりそうな状況です。医学博士が、50代のうちに「定年後の自分」に早く向き合う必要性を事例とともにお伝えします。今回は、定年後に地域や家庭で孤立を深めていった男性の事例です。 - マスク、エタノール、アルコールの在庫情報と最安値を探せるWebサイトが公開 大手通販サイトを比較
動画制作などを手掛けるInSync(大阪市)は、自社の運営する価格比較・レビューサイト「ショップリー」において、新型コロナウイルスの感染症対策グッズを簡単に見つけられ、かつ最安値で購入できるようにするためのWebサイトを開設。特集ページでは、マスク、無水エタノール、アルコール関連グッズの在庫情報と価格を毎日更新。ユーザーは最新情報の中から価格を比較することや、最安値の商品を探すことが可能だ。 - フィリピンで綱渡り人生 借金500万円から逃れた「脱出老人」の末路
フィリピンパブで出会った女性を追い掛け、借金500万円超を残したまま現地へ渡った「脱出老人」の末路――。待っていたのは不法滞在、困窮生活……。「海外で悠々自適なセカンドライフ」という美辞麗句とはかけ離れた一人の男の人生を追った。 - 私はこうしてプロ野球をクビになった
元プロ野球選手で、『俺たちの「戦力外通告」』著者が、自身の体験をもとに“クビ”になった経緯を語る。 - マスクなどの通販在庫や最安値を探せる「ショップリー」に新機能追加 感染者情報をインフォグラフィックで表示
動画制作などを手掛けるInSync(大阪市)は、自社が運営する価格比較・レビューサイト「ショップリー」に、国内の新型コロナウイルス感染者情報をインフォグラフィックにした。厚生労働省の公開するデータをもとに、国内感染者数の推移がひと目で分かるよう視覚的に表現している。 - マスク在庫の次はアルコール消毒液、通販サイトで値段が安い順に表示
アプリ開発などを行うアスツールは、マスクの在庫や価格を検索できるWebサイト「マスク在庫速報」の検索対応商品に、アルコール消毒液を追加した。それにあわせ、サービス名称を「在庫速報.com」へと変更した。 - 「Amazonとは違う世界を」 古書店に眠る本を“検索”で蘇らせた元リコー社員
定年後を見据えて「攻めの50代」をどう生きるのか。新天地を求めてキャリアチェンジした「熱きシニアたち」の転機(ターニングポイント)に迫る。3回目は古書の検索サイト運営会社を起業した元リコー社員の河野真さん(62)。 - イオングループのコックス、洗える布マスク「やわマスク」を発売 4月下旬から発送
イオングループのコックス(東京都中央区)は、洗って繰り返し使える布マスク「やわマスク」の予約販売を開始した。 - マスクの1枚あたりの価格と納期を比較できる「マスク在庫価格ランキング」登場
Webサービスの企画運営を行うTeams TOKYO(東京都港区)は、マスク1枚当たりの価格比較と発送までの日数をリスト表示できるWebサイト「マスク在庫価格ランキング」を公開した。「マスク在庫価格ランキング」では、Amazonと楽天市場から在庫のある商品をピックアップ。1枚当たりの価格を計算し、価格の安い順でランキング表示する。また、各ショップごとの発送までの日数を表示し、利用者がいつごろ入手できるかが分かるようになっている。 - ミキハウス、子ども用マスクを発売 50回洗っても効果が続く生地を採用
ミキハウスブランドを展開する三起商行は、抗菌・抗ウイルス加工生地を使用した子ども用ガーゼマスクを4月6日に発売した。対象年齢は2〜5歳で、色はピンクとブルーの2色から選べる。本体価格は、柄違い2枚入りで税別1800円。ミキハウス公式オンラインショップで購入できる。 - アイリスオーヤマが国内にマスク生産設備を導入 日本への供給能力を約8割引き上げ
アイリスオーヤマは同社の大連工場(中国・遼寧省)と蘇州工場(中国・江蘇省)に加え、宮城県角田工場の一部を改修してマスクの生産を実施する。世界的な新型コロナウイルスの感染症問題の長期化に伴ってマスクの入手が困難な状況が続いていることから決定した。政府は3月中に月6億枚のマスク確保を目標に掲げ、各企業に供給量の増加を要請している。同社もこれに応じ、補助金の対象になる。 - 新型肺炎が教える中国ビジネスのリスク パンデミックが多発する中国との付き合い方
新型肺炎の感染拡大が連日のように報道されている。報道を見れば見るほど、私たち日本人は「中国リスク」を痛感させられているのではないだろうか。本連載では中国ビジネスについての歴史的な経緯をクローズアップ。中国となんらかの関わりを持つ人が事前に知っておくべき教養と、新型肺炎がもたらすリスクについて取り上げていく。第1回目は、報道があまりなされない中国の食文化・食習慣と新型肺炎の関連性についてふれる。 - 世界最強の政党「中国共産党」の実像――14億人を支配する7人
中国はいかにして「S級国家」へとのし上がったのか? 中編では「中国共産党」の権力構造に迫る。 - ユニクロはいかにして中国で勝ったのか? 「20年の粘り腰」に見る強さの源泉
2002年秋、上海に初出店し、しばらく鳴かず飛ばずだったユニクローー。なぜ中国市場で勝つことができたのだろうか? 気鋭の論者が分析する。 - 突如、明らかになった簿外債務35億円 最後まで説明責任を果たさなかった婦人用バッグ卸が示す「倒産の図式」
成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。 - 借り入れ依存度9割弱 金融機関の支援で「延命」されていた長野県有数の中小企業がたどった末路
成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。 - 朝食を抜きがちなビジネスパーソンに残された最終手段「だけ朝食」とは?
昼は毎日外食、夜は接待に飲み会、朝は時間がなく何も食べない――。健康は気になるけど、毎日忙しく過ごすビジネスパーソンが「規則正しい、理想に近い食生活」を実行するのは不可能に近い。それでも、できるだけ健康でいるためにはどうしたらよいのか。20年以上活躍する食生活ジャーナリストが「せめてこれだけは実践しよう」という健康情報をお届けする。 - 「会社で夕食」も「帰るまで我慢」も不健康のもと 残業中の小腹を満たす「最強食材」とは?
昼は毎日外食、夜は接待に飲み会、朝は時間がなく何も食べない――。健康は気になるけど、毎日忙しく過ごすビジネスパーソンが「規則正しい、理想に近い食生活」を実行するのは不可能に近い。それでも、できるだけ健康でいるためにはどうしたらよいのか。20年以上活躍する食生活ジャーナリストが「せめてこれだけは実践しよう」という健康情報をお届けする。 - 新年会でもご用心 なぜビジネスパーソンは「シメのラーメン」を我慢できないのか?
毎日忙しく過ごすビジネスパーソンが「規則正しい、理想に近い食生活」を実行するのは不可能に近い。それでも、できるだけ健康でいるためにはどうしたらよいか、気にならない人はいない。連載3回目は、飲んだあとになぜつい「シメのラーメン」を食べてしまうのか、そして「から酒」がいかに胃や肝臓に負担をかけるのか、解説する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.