テクノロジーは全てを解決しない 人事担当者が知っておくべき「HR Tech」の実像:HR Techの現在地(5/5 ページ)
膨大な数のサービスが登場した「HR Tech」だが、企業の人事課題を何でも解決する“魔法の杖”として過信するのは禁物だ。熟慮せずに導入したことにより、何も解決せず、またかえって担当者の負担が増大してしまうケースも少なくない。本記事では、複数のあ企業で人事責任者を“複業”し、人事領域に詳しい高橋実氏が、人事担当者として知っておくべき「HR Techの実像」を解説する。
人事担当者に求められる「3つの力」
企業を取り巻くビジネススピードはより速くなり、労働環境の変化や価値観の多様化により企業戦略における人事の重要性は高まってきています。人事担当者は、ときには経営者と比肩して企業の舵とりを担う存在になる必要があります。オペレーション中心だった人事から戦略人事のへのシフトが求められ、その中でHR Tech活用の必要性は今後さらに高まるでしょう。
では、ここまでを理解したうえで、これからHR Techの導入を考える人事担当者に求められる役割とはどういったものになるのでしょうか。
筆者は、以下の3つの力が求められると考えています。
(1)事業視点
人事は「事業課題は何か、その中で組織と社員は、何を解決しなければならないのか」という視点を持たなければなりません。人事が担うのは「組織課題」だと考えられがちですが、実は組織課題と事業課題はひも付いています。そして経営者は、あくまで事業のことを一番に考えるものです。人事担当者は、経営者と議論ができるよう、組織的な視点とともに、事業視点を持つようにしましょう。
(2)労務実務知識
とはいえ人事のベースは、あくまで労務です。HR Techを導入するには、「労務実務」をしっかり理解しておかねばなりません。正しい実務運用はどうするべきなのか。経営者は人事のプロではありません。「人事のプロフェッショナル」としての労務実務知識を学ぶことは必要不可欠です。
(3)情報分析力
いくら優秀なHR Techがあっても、使う側にデータを読み取る力(分析力)がなければ、「正しい意味」を読み取ることは、不可能です。HR Techで可視化されたデータが何を意味するものなのか、膨大な人事のデータは、組織のカルテと考えましょう。この膨大なカルテが何を意味するものなのか、そのデータを分析する力も求められます。
この3つに加えて、「実行力」も必要になりますが、。まずはこの3つをしっかり押さえていれば、HR Techを活用できる可能性が広がるはずです。
今回のコロナショックは、これまでなおざりにしてきた働き方改革の課題を、残酷なまでに浮き彫りにしてしまいました。「テレワーク」一つとっても、全くできなかった企業も多いはずです。しかし、逆に言えば働き方の「本質」と向き合うチャンスでもあります。アフターコロナは誰しも未体験の社会環境との闘いになるでしょう。本質と向き合い、議論し、新しい世の中に対してどう手を打っていくのか。これからは一層人事の本質が問われる時代に入ります。
著者プロフィール・高橋 実(たかはし みのる)
組織・人事クリエイティブディレクター/マイクロ人事部長
株式会社ティーブリッジェズカンパニー 代表取締役
株式会社モザイクワーク 取締役
法政大学 兼任講師ほか、複数企業の人事責任者として従事。
慶應義塾大学卒業後、株式会社ジェーシービーでインターネット黎明期の新規事業立ち上げに従事、その後NTT、トヨタのクレジットカード事業立ち上げに参画。その後人事に転身し、トヨタファイナンス株式会社、創業100年企業、株式会社HDE(現HENNGE株式会社)で人事部長を歴任したのち、「人事の複業」として複数企業の人事責任者としてハンズオンで企業の組織改革を手掛けている。
新卒、中途、アルバイト採用変革、外国人採用、人事制度改革、女性人材活用、組織改革プランの企画・実行、HR Tech導入、労務実務改革、組織健康戦略、戦略総務(BCP/リスクマネジメント/オフィスファシリティマネジメント)など、企業の中に入ってハンズオンで行っている。セミナー登壇・メディア出演多数。
「高橋実@マイクロ人事部長」としてnoteでも情報発信を行っている
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