テクノロジーは全てを解決しない 人事担当者が知っておくべき「HR Tech」の実像:HR Techの現在地(4/5 ページ)
膨大な数のサービスが登場した「HR Tech」だが、企業の人事課題を何でも解決する“魔法の杖”として過信するのは禁物だ。熟慮せずに導入したことにより、何も解決せず、またかえって担当者の負担が増大してしまうケースも少なくない。本記事では、複数のあ企業で人事責任者を“複業”し、人事領域に詳しい高橋実氏が、人事担当者として知っておくべき「HR Techの実像」を解説する。
HR Techが有効なのは「予防に向けた可視化」
これまで人間に依存していた業務を可視化し、漏れのない状態を作る。これが、HR Techを導入する本質的な意義であり、理想です。しかし、対処まではまだできません。HR Techは、あくまで課題解決の「手法」であって、課題解決は最終的にソリューションの使い手によるのです。
現段階においてHR Techでできることは、「大量のデータ処理」「可視化」がメインです。そこで、これから先に重要となるのが「顕在化する前の兆候を察知し、アラートを発見するために可視化すること」です。つまり、退職者やメンタルに不調をきたしてしまう従業員の発生を未然に防いだり、兆候が見えたらすぐに対処できたりするような体制をつくることです。
例えば出勤時刻、退勤時刻といった勤怠に関するデータ。多くの企業では、超過残業がないかどうかのコンプライアンスチェックや、残業代の計算などにしか使っていないのではないでしょうか。もちろん、それは必要です。しかし筆者は、勤怠情報は「社員のモチベーショングラフ」としても活用できると思っています。
自社の従業員の勤怠情報を3カ月分、じっと眺めてみてください。
いつも朝8時ぴったりに出勤している人がいたとします。その人が、徐々に出勤時刻が遅くなった。そして、いつの間にか定時ギリギリになっている。勤怠データでそんな人を発見したら、本人や周囲のメンバーに声をかけてください。社員の変化には、必ず「原因」があります。仕事が超多忙で限界を迎えているかもしれない。恋人に振られてプライベートのモチベーションが仕事に影響していることもあるでしょう。身体に重大な疾患を抱えているのが要因かもしれません。こうした原因の発見にこそ、HR Techを活用するべきです。全社員のデータに目を通すのは大変ですが、テクノロジーを活用すれば効率化ができるはず。
「風邪をひき始めたときに、対処する」。これが、組織・人材課題を解決する最善の手法です。繰り返しになりますが、HR Techは発展途上の領域で「対処」まではできません。だからこそ、「ひき始めの人」や「ひきそうな人」の発見にHR Techを活用し、組織課題の最終的な解決法は、人間が考え、行うことが重要です。そうでなければ、問題点ばかり浮き彫りになり、組織は1ミリも変わらないでしょう。
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