副業の優等生、JR九州が放置した「傾斜マンション」の罪:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
JR九州が1995年に販売したマンションで杭工事の不具合があったと発表した。20年以上の間、住民からの訴えを否定し続けてきたのが実態だ。住民はJR九州のブランドを信頼して購入しただろう。真摯に対応するきっかけはこれまでにもたくさんあったはずだ。
JR九州を信じて買ったはず
福岡綜合開発(現・福岡商事)の現地での知名度は筆者には分からない。しかし筆頭株主は福岡銀行で、他の株主も金融系、九州電力や西日本鉄道も連ねている。しっかりした会社だろうと思う。そしてJR九州は地元の企業としてはトップブランドだ。
施工会社の若築建設は一般の知名度は低いものの、筑豊炭田の積み出し地、若松築港の建設から始まった会社だ。海洋土木で国内外に実績がある。1990年は若築建設の創業100周年に当たる。つまり、ベルヴィ香椎はJR九州と若築建設にとって初のマンション物件、記念碑的なプロダクトだった。しかし、裏を返せばマンション事業の素人所帯である。
私が初めて都内の新築マンションを購入した時は、参考になる本や情報をあさった。その経験しかないけれど、販売も施工も実績がない会社の物件は手を出しにくい。それでもベルヴィ香椎は人気物件で販売は好調だったようだ。JR九州初のマンションといえども、やはり鉄道で実績のある大企業「JR九州」のブランドは信頼できるし、1990年にJR九州が旭化成と協業した戸建て住宅販売などの実績もある。施工会社は若築建設のほか、JR九州の子会社の九鉄工業が加わっている。このマンションは「JR九州のマンション」だ。
しかも、JR九州はマンション住民のために、徒歩5分以内の場所に駅まで作ってくれた。私のような鉄道ファンなら飛びついたかもしれないし、鉄道ファンでなくても通勤至便な好立地だ。当時の新聞報道によると、低金利を背景に3000万円台の新築マンションが売れており、西日本鉄道とJR九州が新規案件で競う構図となっていたようだ。
私は初めてマンションを買った時の気持ちをよく覚えている。モデルルームを見て、抽選に応募し、ドキドキしながら当選を待った。住宅金融公庫(当時)の審査もヒヤヒヤしつつ無事に通り、契約会でハンコを押しまくった。建築中は何度も現場説明会へ行き、そこで仲良くなった未来の隣人たちと飲み会を開いて交流した。新築の入居の達成感。入居後、外廊下の風切り音が大きくクレームとなったけれども、施工会社の真摯な対応で解決されたこともよく覚えている。
ベルヴィ香椎六番館を購入した人々も同じく晴れやかな気持ちだっただろう。しかしそれは入居早々に落胆に変わる。外装ひび割れと、年々増加していく歪み、同じフロア同士で10センチになる高低差に悩まされてきた。購入者の窓口となる販売会社も、施工会社も非を認めない。その状態が25年間も続いた。そんな住戸のローンも払い続けるしかない。心からお気の毒だと思う。そして、鉄道ファンとしても、信じていたJR九州の行為に悲しくなった。私なら心を病みそうだ。
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