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副業の優等生、JR九州が放置した「傾斜マンション」の罪杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)

JR九州が1995年に販売したマンションで杭工事の不具合があったと発表した。20年以上の間、住民からの訴えを否定し続けてきたのが実態だ。住民はJR九州のブランドを信頼して購入しただろう。真摯に対応するきっかけはこれまでにもたくさんあったはずだ。

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信頼を回復してほしい

 こうして振り返ると、JR九州がこの問題に真摯に対応するきっかけはいくつもあった。一連の記事を読めば当事者間で問題解決するきっかけはたくさんあるし、客観的に見ても、2005年の姉歯事件、15年の「パークシティLaLa横浜」事件という他山の石がある。もちろん東証一部上場にあたって、各事業の健全性、コーポレートガバナンスもチェックできた。

 もちろんJR九州がペラ1枚のおわび書面で済ませることはないだろう。この問題に対するプロジェクトチームも発足しているかもしれない。完全な解決策は建て替えだと思う。「NETIB-NEWS」の内容が正しければ、ベルヴィ香椎の全棟で「構造スリット」の有無を確認し、瑕疵があれば、やはり建て替えだ。相当な金額になる。しかし、これはきちんと解決しなくてはいけない。施工に関わっていないとしても「瑕疵を放置する販売会社だ」となれば、今後JR九州のマンションを買いたいと思う人は減るだろう。中古相場は下落し、他のMJRシリーズの住民も影響を受ける。

 5月18日にJR九州のサイトで公開された「株主提案に対する当社取締役会意見(補足資料)」では、「JR九州住宅における不祥事(2018年9月)」が株主から指摘されている。JR九州住宅の従業員が融資に関する書類を偽造した問題だ。会社からの回答は「第三者委員会を設置し調査を実施、グループガバナンスの改善・強化を図っている」だった。


株主より関連会社の不祥事について意見があった。ベルヴィ香椎六番館に関する記述はなし(出典:JR九州 株主提案に対する当社取締役会意見(補足資料)

 ベルヴィ香椎問題も第三者委員会を設置し「なぜ25年も問題を先送りしたか」「なぜ完全民営化、株式上場で明るみに出さなかったか」を解明してほしい。「NETIB-NEWS」で指摘されているように、建築物の瑕疵担保期間の10年(最大20年)の経過を狙っていたとすれば悪質だ。

 私はこのニュースが本当に残念でつらい。これから私は「マンション問題を放置したJR九州の九州新幹線」に乗るのだろうか。「マンション問題を放置したJR九州の『或る列車』」でおいしいケーキをいただくのか。「マンション問題を放置したJR九州の『ななつ星in九州』」に乗るくらいなら、ほかのクルーズトレインのほうがいいなあ、なんて思い続けるのか。JR九州のニュースを見聞きするたびにベルヴィ香椎がついてまわるではないか。

 なんてことしてくれたんだ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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