「脱ブラック」進むワタミ、コロナで大打撃ながらも従業員に“太っ腹”対応:働き方の「今」を知る(3/3 ページ)
新型コロナの影響が深刻だった居酒屋業界。そんな中、「脱ブラック」が進むワタミでは従業員に手厚い対応を見せた。黒字予想から一転、20年3月期は60億円超の赤字となりながらも矢継ぎ早に講じた対応は、どういったものだったのか?
人材派遣会社設立の裏側
このように、「働きたいが仕事がない社員」については出向制度で対応してきたが、その一方で「働きたいが仕事がないパート・アルバイト従業員」を救済する手段がなかったのも事実だ。そこで、彼らに働く場を確保するために生まれたアイデアが、今回の「派遣会社設立」なのだ。ただし、自社で完全にゼロから派遣会社を立ち上げるには時間も手間もかかる。そこで今回は、既に存在していた派遣会社を買収して子会社とする形で迅速な対応ができるようにしたという。
人材派遣はワタミに籍を置く全てのアルバイト従業員を対象としているが、社員でも登録可能。既に今月から介護施設への派遣案件が決定しているといい、今後もスーパーマーケット、食品加工工場、環境事業、農業などで交渉が進んでいると担当者は話す。いずれも、ワタミが今後展開に力を入れる「6次産業モデル」(有機農業、畜産・酪農の「1次産業」、食品製造・加工の「2次産業」、流通・販売の「3次産業」を一貫してグループで運営・管理するビジネスモデル)に関わる事業であり、パート・アルバイトの方々に今の段階から実務経験を積んでおいてもらうことにもつながり、十分に意義があるといえよう。
また、出向であれば契約期間は最低1カ月単位からとなるが、派遣であればさらにそれよりも短期間から対応できるので小回りも利く。つまり、アルバイトの籍をワタミに置きながら派遣として働くこともできる柔軟性もあるのだ。
本稿で列挙した業態や企業以外でも、人手不足の現場を持つ会社から「ワタミで鍛えられた従業員を派遣してほしい!」とのニーズは根強いようで、多くの要望が寄せられているという。派遣先としては人手不足を解消でき、ワタミは従業員に働く場を提供でき、さらに従業員は目新しい現場で自らの働きに期待されて経験値も高まる。まさに「三方良し」の取り組みだといえよう。
ちまたでは、緊急事態宣言下でも営業を継続したお店や、従業員を休業させているにもかかわらず十分な休業手当を払わなかった企業、それどころか先行きが見えないとして全従業員を解雇した会社などが批判にさらされていたが、売り上げの大幅減少という苦境の中、基本給と同額の手当を支給し、雇用の救済策などを矢継ぎ早に講じたワタミは十二分に手厚い対応をとった、と言ってよいだろう。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。
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