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「パワハラ防止法の施行で『陰湿なパワハラ』が増える」という批判は正しいのか働き方の「今」を知る(2/4 ページ)

6月1日、いわゆるパワハラ防止法が施行された。これにより、大企業にはさまざまな対策が義務付けられるようになった(中小企業は22年4月から)。これまで統一されていなかったパワハラの定義が示される一方で「陰湿なパワハラ」が増えるのでは、といった懸念もある。ブラック企業に詳しい新田龍氏の見解は?

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パワハラの定義が明確化

 今般の法律ができるまで、パワハラ行為について直接的に規定した法律が存在しなかったため、パワハラ自体を罰することはできなかった。ではどう対処していたかというと、「暴力行為なら暴行罪や傷害罪」「暴言や侮辱なら名誉毀損罪や侮辱罪」「精神的な被害を受けた場合は不法行為責任」といったように、既存の「刑法」や「民法」で当てはまる法律を適用し、過去の判例などと照らし合わせながら被害を訴えていくしかなかったのだ。

 しかし、今般の法律によってパワハラの定義も明確化されたので、ハラスメントの予防や解決につながることを期待できる。ちなみに厚労省が告示した「職場におけるハラスメント関係指針」によると、次の3つの要素を全て満たす行為がパワハラと認められることになる。

(1)優越的な関係を背景とした言動であって

(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

(3)労働者の就業環境が害されるもの


 この要素における「優越的な関係」とは、一般的にイメージされるような「上司から部下」に対するものだけでなく、「先輩・後輩間」や「同僚間」、さらには「部下から上司に対して」など、さまざまな関係が含まれる、という定義であることも重要だ。同省ではまた、パワハラの典型例を次の通り示している。


パワハラとなる具体例(1)、厚生労働省資料より

パワハラとなる具体例(2)、厚生労働省資料より

 これだけを見ると、職場におけるあらゆるコミュニケーションがパワハラに抵触しそうな印象を持ってしまうが、同省では「客観的にみて業務上必要かつ、相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導の場合は該当しない」「個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得る」ともしている。当たり前だが、上記に該当するケースであっても、全てがパワハラと認定されるわけではないのだ。

悪質な違反企業は「企業名公表」も

 パワハラを防止するための法律ではあるが、パワハラ対策がなされていない企業に対する直接的な罰則規定はない。この方針については、無策の企業に罰を与えていくよりも「労働局の助言や指導、勧告に従い、事業主が主体的に措置を講ずることが大切」という厚労省の考えが背景にある。しかし、労働局の指導や勧告を受けても企業側が是正しなかった場合は、最終的に企業名が公表される仕組みになっている。これが実質的な制裁といえるだろう。

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