「20モデル以上の新型車」はどこへ? どうなる日産自動車:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
財務指標はほぼ全滅という地獄の様相となった日産の決算。問題に対してすでに適切な手を打ってあり、今決算には間に合わなかったものの、回復を待っているというのならともかく、ただひたすらに悪い。そうした全ての状況に対して、ようやく大筋の方針が出来、これから個別の具体策策定に着手するという状況で、未来が全く見えない。念のためだが、決して未来がないといっているのではない。日産の未来は現状、皆目見当がつかないということだ。
商品の旧態化が著しく進行
一応、営業利益の増減要因を見てみる。例によって左端の紺の柱が前年度の営業利益、右端の短い柱が今年度の営業利益となる。マイナス1610億円と書かれた赤い柱が、必要コストだ。為替の差損や新たな法規制への対応、原材料や関税と言ったあまり削減できない出費である。まあこれは仕方がない。
続いて販売台数・構成で2923億円のマイナスだ。普通はここで「台数はダウンしているが構成は良くなっているのではないか?」とか、「構成が落ちても、台数が増えているのではないか?」というような話になるのだが、前年度の決算発表で明らかになっているように、日産は商品の旧態化が著しく進行しており、以来期内にめぼしい新型は発売されていない。つまり昨年から、さらに1年分の旧態化が進んでいる状況だ。これでは当然構成が良くなる要素はなく、冒頭で台数の10.6%ダウンもはっきりしているので、どっちもダメになっていると見るしかないだろう。
という状況の下で、できることは値引きくらいしかない。旧態化した商品で、競合他社の最新型と戦うには、普通はインセンティブ投入の勝負になるはずで、大幅なマイナスにならないとおかしい。しかしながら不思議なことに、販促費用で632億円のプラス効果が出ているのをみると、防戦して台数を確保することについて、現場ではもう半ば諦め気分だったように思える。
不利な商品を何が何でも売ろうと思えば販促費はもっと膨らむはず。しかしながら値引きはより一層のブランドイメージダウンに直結するので、捲土重来(けんどちょうらい)に備え、おそらくはガイドラインを設けて、値引きを抑制したのだろう。その範囲で売れるだけでいいという指令が出ていたのではないか? 当期一年の販売と引き換えにしてでも、これ以上のブランド毀損を防がないと復活のシナリオさえ書けなくなる。おそらくそういう判断だったはずだ。
ちなみに「おそらくそういう判断だったはずだ」と、断言を避けているのは前期の決算資料と当期の決算資料の項目の括り方が違うからだ。何らかの事情があるのかもしれないが、こういう厳しい状況下で決算資料が比較しにくいと、あまり正直でない印象を受けてしまう。ちなみに昨期ではこれが「パフォーマンス」というよく分からない項目で括られており、その内訳としての販売活動ではマイナス1001億円となっていた。
関連記事
- 完敗としか言いようがない日産の決算
ズタズタの決算内容だった日産。一つの要因は、北米で販売促進費用(インセンティブ)をつぎ込んで売り上げを伸ばそうとしたことにあるのではないか。対策として、22年にはモデルラインアップの半数を電動化車両にするというがバッテリー供給は大丈夫か。20車種の新型を出すというのも、短期間で作られる新車は大丈夫なのか? - 象が踏んでも壊れないトヨタの決算
リーマンショックを上回り、人類史上最大の大恐慌になるのではと危惧されるこの大嵐の中で、自動車メーカー各社が果たしてどう戦ったのかが注目される――と思うだろうが、実はそうでもない。そして未曾有の危機の中で、トヨタの姿は極めて強靭に見える。豊田社長は「トヨタは大丈夫という気持ちが社内にあること」がトヨタの最大の課題だというが、トヨタはこの危機の最中で、まだ未来とビジョンを語り続けている。 - 強いトヨタと厳しい日産
日本の自動車メーカーは調子が良いのか悪いのか、とくにここ数年中国の景気悪化が伝えられており、その影響が心配される。全体を見て、とにかくこの逆境下で強さに圧倒されるのがトヨタで、ちょっと言葉を失う厳しさに直面しているのが日産だ。スズキとマツダは日産を見るとまだ救われるが、下を見て安心していていい状況とは思えない。概要としては各社そろって、程度の差はあれど逆境である。 - 6700億円赤字の日産自動車 待ったなしの「選択と集中」、その中身とは?
日産自動車が発表した2020年3月期決算では、純損益が6712億円の赤字に転落。“拡大路線”からの転換ができていない中で新型コロナによる危機が襲った。構造改革を進める4カ年計画では、生産能力や商品数の削減などによる「選択と集中」を加速させる。 - なぜ日産は「技術」をアピールして、「ぶっ壊せ」と言えないのか
日産の業績が悪化している。「ゴーン前会長のことがあったから仕方がないでしょ」と思われている人が多いかもしれないが、筆者の窪田氏はちょっと違うところが気になるという。それは、同社のCM「ぶっちぎれ、技術の日産」というコピーだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.