賃上げ実施率は5年間で最低 新型コロナが直撃、23ポイント減:3カ月前より大きく減少
東京商工リサーチは、2020年度に賃上げを実施した企業が57.5%だったと発表した。80%を超えていた前年と比べて20ポイント以上下回った。新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績が見通せなくなった企業が多く、賃金や消費に影響を及ぼしている。
東京商工リサーチは7月20日、2020年度に賃上げを実施した企業が57.5%だったと発表した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績が見通せなくなった企業も多く、80%を超えていた前年と比べて20ポイント以上下回った。感染拡大に歯止めがかからず、事業環境を予測しづらい状況が続くことから、賃金への影響も長引くことが懸念される。
同社は6月29日〜7月8日に「賃上げに関するアンケート」を実施。集計・分析結果を発表した。有効回答数は1万3870社。
定期的な集計を開始した16年度以降、賃上げ実施率は毎年80%を超えていた。しかし20年度は、前年度から23.4ポイント減の6割弱にとどまった。反対に「実施していない」が急増し、23.3ポイント増の42.4%となった。企業規模別の実施率は、大企業が65.9%だったのに対し、中小企業は55.9%と差が開いた。
3月27日〜4月5日に実施した中間集計では、「実施する(予定含む)」が72.1%、「実施しない(同)」が27.9%だった。緊急事態宣言や外出自粛要請などで経済活動が停滞した3カ月間を経て、「実施」の回答は14.6ポイント下落した。
回答を産業別にみると、賃上げ実施企業の割合が最も大きかったのは「製造業」で62.8%。「卸売業」が60.8%、「建設業」が59.9%と平均より高かった。一方、「小売業」は53.5%、「サービス業他」は49.5%、「不動産業」は45.9%。最も低かったのは「金融・保険業」で29.4%だった。
賃上げを実施した企業に対して賃上げ率を聞くと、年収換算ベースで「2%以上3%未満」が26.7%で最多。次いで「1%以上2%未満」(23.6%)だった。賃上げ率が「3%未満」という企業が57.7%を占めた。
賃上げ率が「3%以上」と回答した企業の割合を規模別にみると、大企業が28.9%だったのに対して、中小企業は45.2%に上った。東京商工リサーチは、人材確保や定着率向上のために、賃上げによる待遇改善に迫られている中小企業も多いと指摘する。
また同社は、7月中旬以降に感染者が再び増加していることから、賃上げ実施率がさらに悪化している可能性もあると言及。「経済活動の一段の停滞は、冬の賞与(一時金)だけでなく、来春の賃上げにも影響を及ぼしかねない」とコメントしている。
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