禁止か買収か TikTokがトランプの目の敵にされる「4つの理由」:世界を読み解くニュース・サロン(6/6 ページ)
人気アプリ「TikTok」を巡って、米中の混乱がさらに深まっている。なぜ米政府はTikTokの禁止や買収に言及しているのか。トランプ大統領がこのアプリを禁止したい理由は4つある。TikTokに逃げ道は残されておらず、こういった締め付けは今後も続く可能性が高い。
TikTokにもう逃げ道はない
こうしたポイントを見ていくと、TikTokにはもう逃げ道はなさそうだ。米政府から禁止されて国から追い出されるか、米国内のオペレーションを米企業に売却するか――。その二択になっている。
もっとも、TikTokは世界的にも広く使われている。ただ、米国外でも劣勢にあると言っていいかもしれない。例えば日本も、与党が規制すべきだと声を上げているし、データプライバシーに厳しい欧州でもTikTokへの調査が始まっている。
ちなみに、欧州でも中国政府や中国のアプリへの対応が今後厳しくなる可能性がある。というのも、欧州でも新型コロナを機に、中国のイメージがこれまで以上に悪化しているからだ。
欧州外交評議会が行った欧州各国の中国に対するイメージの変化についての最新調査結果によれば、中国のイメージが新型コロナ前よりも悪化したと答えた人たちの割合は、デンマークでは62%、フランス62%、スウェーデン52%、ドイツ48%、スペイン46%、ポルトガル46%、ポーランド43%、イタリア37%となっている。もちろんこれらの国にとってもビジネス面で中国市場は非常に重要であるが、それでもイメージはかなり悪化している。
米政府による中国アプリなどへの締め付けは今後も続く可能性がある。ポンペオは最初にTikTok禁止を示唆した際に、「TikTokを含む中国のSNSアプリ」という言い方をしている。つまり、こうした措置はTikTokにとどまらないということだ。すでに中国のメッセージアプリ「WeChat」が何らかの規制対象になるとの話も出ている。
こうした締め付けは、トランプが大統領選で敗れてもおそらく変わらない可能性がある。というのも、米国が中国を国家的な「敵対勢力」とロックオンしているからだ。
特に、米国という国は第二次大戦以降、常に対抗する敵を見つけながら世界をリードしてきた。CIA(米中央情報局)など政府機関もそれをベースに、自らの「存在価値」を見いだしてきた。
ソ連との冷戦に始まり、冷戦の終焉後は対テロ戦争。イスラム過激派勢力などとテロとの戦いを繰り広げ、イラクやアフガニスタンでの戦争が徐々に落ち着きを見せると、今度は中国共産党との覇権争いだ。これは国としての流れであり、しばらくは誰がリーダーになろうとも中国との争いは続くだろう。
まだ中国との戦いは序の口である。今後も驚きは続くだろう。日本のビジネスパーソンもそういう認識を持っている必要がある。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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