持ち家がもはや「冗談抜きで困難な夢」になったこれだけの理由:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
いまだに根強いとされる日本人の持ち家志向。しかし筆者は「冗談抜きで困難」になったと指摘。印象論でなくデータから導き出される実態とは?
災害リスクも不動産価格に影響
コロナ危機でもマンション価格が値上がりしているのは、テレワークの普及で広い物件を望む顧客が増えたことに加え、集中豪雨による浸水など災害リスクが高まっており、条件のよい物件の奪い合いが生じているからである。
近年、日本をとりまく気象状況が変化し、各地で浸水被害が続出しているのは多くの人が認識していることだろう。気候変動の影響で前線が停滞しやすくなったり、台風が大型化したりしているのは事実だが、日本は昔から災害大国であり、何度も洪水や台風、地震の被害を受け、多くの死者を出してきた。だが、どういうわけか日本人にそうした認識は薄く、「日本の気候は世界でもっとも穏やかであり、安全で住みやすい国だ」という話がまかりとおってきた(実際に外国に行ってみれば、その話がウソであることはすぐに分かると思うのだが…)。
こうした危機意識の欠如は、不動産の売買にも影響している。不動産を売買する際、不動産会社は物件固有のリスクなど重要情報について買い手に説明する義務がある(重要事項説明)。だが、浸水リスクは重要事項説明の項目にはなっておらず、浸水リスクを知らずに物件を買っていた人も多い。
近年、災害が多発していることで慌てた政府は急遽(きゅうきょ)省令の改正を行い、ハザードマップにおける物件位置の明示を重要事項に追加した。8月28日以降に売買される物件については、浸水リスクがある場合、買い手に説明する義務が生じる。買い手にとって安心できる物件はますます貴重になり、価格はその分だけ上がっていくだろう。
保険も同様である。これまでの損害保険は浸水リスクの地域差を考慮していなかったが、近年の被害拡大を受けて大手各社はハザードマップと保険料を連動させる仕組みに切り替える方針を固めた。今のところ企業向けの商品が対象だが、今後は、個人向け商品においても、災害リスクが高い地域の保険料は高くなり、リスクが低い地域の保険料が安くなる可能性が出てきた。
保険などの金融面でも縛りが出てくると、買うに値する不動産はますます絞られてくる。持ち家がよいか賃貸がよいかは、世帯の状況によって変わってくるが、ここまで不動産の取得が難しくなってしまうと、一生、賃貸で通すというのも1つの考え方になってくるだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
関連記事
- 「何でもスクショ」な若者と「いつでも電話」中高年の意外な共通点――日本特有の“使えない人材”とは
「何でもスクショを飛ばして済ます」若者が話題に。ただ根底の問題は「いつでも電話」してしまう中高年と一緒と筆者は指摘。日本企業の人材、ひいてはマーケティングに横たわる課題とは? - コロナ禍転職不況、中でも「特に厳しい意外な人材」とは?――独自データで分析
コロナ禍で転職市場が悪化、急速に買い手市場に。中でも求人が特に激減している「人材の層」があるという。dodaの独自データから分析。 - コロナ後もテレワーク、「オフィス消滅」企業が続々
コロナ対応で進むテレワーク化。終息後も思い切って「オフィスを無くす」企業が続々と登場。本当に職場は不要か、意外なメリットにも迫る。 - コロワイドの提案退けた大戸屋、再建になおも立ちふさがる“究極のジレンマ”
大株主コロワイドと対立する大戸屋。株主提案は否決されたが経営再建は茨の道。店内調理の是非、そしてもっと奥に潜む対立も。 - KDDI「ジョブ型移行」が暗示――“企業社会で居場所消滅するサラリーマン激増”の未来
KDDIが「ジョブ型雇用」導入を表明。筆者はこれが日本型雇用の崩壊につながると指摘。企業社会で居場所が消滅するのはどんな人か。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.