デジタル時代、顧客の参加で変わる「4P」 ユーザーのハッキングまでも認める「共創」とは?:「新時代」のマーケティング教室(5/5 ページ)
マーケティング理論として知られる「マーケティング・ミックス」(4P)。デジタル時代にどう変わっている? 東京都立大学経済経営学部の水越康介教授が解説する。
共創政策の最前線は……
最後に、今日の顧客がもっとも積極的に活動しているコンテンツを紹介しよう。言わずもがな、SNSである。TwitterでもFacebookでもInstagramでも、あらゆるSNS上には製品やサービスに関する情報があふれるようになっている。一般的にUGC(User-Generated Contents)と呼ばれるこれらの投稿情報は、企業が意図しているかどうかにかかわらず人々が日々作り出している、まさに共創の成果である。
ただ共創政策では、いたずらに顧客に参加してもらい、一緒に作れば良いということにはならない。SNS上の投稿は企業にとって大きな販促の支援ともなれば、逆に炎上の要因ともなるからだ。つまり、「顧客が参加する自由」に対し企業がどう対応するのかが重要になる。
この点に関してSNSからややずれるが、冒頭で紹介したレゴ・マインドストームのケースでは顧客の参加に対し、当初レゴ社は否定的だった。しかし最終的にはソフトウェアのライセンスに「ハッキングする権利」まで付け加えることによって、一気にユーザーの支持を集めることになった。
現状では、レゴのようなケースはまれである。ユーザーによる自由な利用を禁止している企業は当然多い。しかし、例えば任天堂は著作物の利用についてガイドラインを提示し、個人によるゲーム著作物の投稿や、別途指定されたシステム(例えば、YouTubeの「YouTubeパートナープログラム」)での収益化も認めているし、最近では契約を締結した法人にも対象を広げている。このことからケースバイケースであろうが、共創政策が仕組みを伴って着実に進んでいることが分かる。
さて、ここまではデジタル時代のマーケティング・ミックスにおける「共創」を見てきた。次回は、価格政策のアップデート版である「通貨」についてみていく。
著者プロフィール・水越康介(みずこしこうすけ)
東京都立大学 経済経営学部 教授
2000年に神戸大学経営学部卒業、2005年に同経営学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。2005年から首都大学東京(現東京都立大学)、2019年から経済経営学部教授。専門はマーケティング、デジタル・マーケティング。主な著書として、『ソーシャルメディア・マーケティング』(単著、日経文庫、2018年)、『マーケティングをつかむ 新版』(共著、有斐閣、2018年)、『「本質直観」のすすめ。』(単著、東洋経済新報社、2014年)、『新しい公共・非営利のマーケティング』(共編著、碩学舎、2013年)、『ネット・リテラシー』(共著、白桃書房、2013年)など。
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