イーサリアム2.0の足音 あなたが知らないブロックチェーン最前線:星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(2/4 ページ)
2020年8月4日、イーサリアム(Ethereum)の次世代版であるイーサリアム2.0の公開テストが始まった。イーサリアムは有力な暗号通貨であり、同時に有力なブロックチェーン技術のひとつだ。その技術の世代交代が始まろうとしている。
テスト段階の事故を乗り越えられるか
いまイーサリアムは「大混雑中」だ。イーサリアムのブロックチェーン上での取引が殺到し、ブロックチェーンの利用手数料が高騰している。DiFi(分散型金融)と呼ばれるスマートコントラクトを応用した一種の金融商品の取引が増えたためだ。
イーサリアムの技術的な特徴としてまず挙げられるのは、「スマートコントラクト」と呼ぶプログラムを動かすプラットフォームとして作られていることだ。WindowsやiOSやAndroidの上で多くのアプリが動くのと同様に、イーサリアムの上には多くのスマートコントラクトが動いている。ブロックチェーン上の記録は「改ざんできないこと」が特徴だが、スマートコントラクトも内容を改ざんできず、実行結果を取り消せないことが特徴だ。金銭のやりとりを伴う契約の執行で求められる性質と似ていることから、「コントラクト(契約)」と呼ばれている。
このスマートコントラクトの主な使い道は、今のところ新たなサービスと、サービスにひも付いた暗号通貨トークンを作ることだ。最近では前述したDeFi(分散型金融)と呼ばれる金融商品に似たサービスが注目を集めている。その内容は暗号通貨担保型のステーブルコイン発行、トークンを交換する分散型取引所(DEX)やトークン貸し付け(レンディング)などだ。これらのサービスにひも付いた暗号通貨トークンである「ERC-20トークン」の種類は、情報サイトEtherscanによれば記事執筆時点で28万3577種類におよぶ。その中には実験的な発行で一般には流通していないトークンも多数あるだろうが、それにしても膨大な数だ。DeFiサービスの利用に伴いトークン送金などの需要が増え、イーサリアムが混雑が進んでいるのが最近の状況である。
そんな中、記事冒頭で触れたように20年8月4日に次世代技術であるイーサリアム2.0の公開版「テストネット」である「Medalla」が稼働を開始した。しかし8月14日には一部のクライアント・ソフトに予期しない問題が発生し、テストネットのブロックチェーン全体が正常に機能しなくなるトラブルが起きた(トラブルの報告書)。こうしたトラブルの解決も含めて、イーサリアム2.0の本番稼働に向けた技術開発が進んでいる。
ここで興味深いことは、イーサリアム2.0のテストネットを構成する「クライアント」ソフトウェアは5種類の開発プロジェクトが同時に進んでいることだ。名前を挙げるとPrysm、Lodestar、Teku、Nimbus、Lighthouseという。それぞれ異なるプログラミング言語で作られている。種類を挙げるとGo、TypeScript、Java、Nim、Rustだ。
また、オープンソースライセンス(利用許諾契約)の種類も4種類を使い分けている(GPL v3、LGPL v3、Apache2.0、MIT)。同じ機能のソフトウェアを重複して開発している形だが、これはエコシステム(生態系)に多様性、冗長性を持たせる発想といえる。短期的には重複による無駄があっても、長期的には全体として生き延びる確率を高めようとしているわけだ。
8月14日に起きたテストネットのトラブルでは、5種類のクライアントのうちPrysmが停止した。Prysmはネットワーク全体の中で70%のノードを占めていたため、テストネット全体が正常な機能を失った。本来のイーサリアム2.0が目指す姿は、複数種類のクライアントがほどよく混在し、1種類のトラブルで全体が停止しないようにすることだ。今回の事故を教訓として取り組みが進むだろう。
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