レヴォーグで提示されたスバルの未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
シャシー性能に注力したスバルの改革は、本当にスバルに相応しい戦略だ。すでに何度も書いてきているが、フラット4の余命はそう長くない。CAFE規制の今後を見れば、少数生産の特殊エンジンとして生き残ったとしても、いつまでも主力ではいられないだろう。その時「スバルの走りとは何か?」と問われたとして、このレヴォーグのSGPセカンドジェネレーションには十分な説得力があり、スバルがスバルでい続けられる理由が相当に明確になった。
新型レヴォーグ検分
そして新型レヴォーグである。走り出して感じたのは、クルマを運転するメソッドそのものが別物になっていたことだ。曲がるための予備動作や、補正の準備が全部いらない。荷重を前に乗せてタイヤの横方向グリップの増加を感じ取りながら、クルマがしでかす不始末を人間が処理すべく備える準備が、大なり小なりこれまでは必要だった。それは不要になってみるととてもはっきりする。
重さに対する備えがいらない。あらゆる速度域と入力に対してロール速度がコントロールされている。車両重量は未発表だが、それはおそらく驚くほどは変わっていないだろう。操作に対する応答遅れに重さが加わると、さまざまな操作のオーバーシュートと揺れ戻しが起こりがちなので、ドライバーにとって大きなプレッシャーとなって返ってくる。逆にいえば、レスポンスが向上すると、操作に対する「恐れ」が減る。
思い起こして欲しい。昔からある、ひねるタイプの蛇口から水が出るのは何のストレスもないが、センサー式の蛇口に手をかざした時のあの不安な気持ち。一気にジャーッと出るかもしれないし、いくら手をかざしても出ないかもしれない。あるいは流量的にちょろちょろかもしれない。そういうレスポンスのタイミングと量が分かりにくい機構に、人は本能的にストレスを感じ身構える。
新しいレヴォーグは、操作に対するレスポンスがタイミング的にも量的にもしっかりコントロールされている。そこに揺らぎない安心感がある。サスペンションのロール速度制御は、硬くして動かさないことで達成されているのではなく、動かしながら急変させないという美しい身ごなしであり、とてもロータス的ハンドリングであるといえた。申し添えておけば最上級の褒め言葉である。
曲がることはもちろんだが、それはブレーキにも現れている。減速時に姿勢が前掛かりにならない。むしろイメージとしては四輪が沈み込むように減速姿勢を取る。これはアダプティブダンパーの功である。フロントのダイブ(沈み込み)とリヤのスクォート(浮き上がり)を抑制していることが直接の理由だが、それが可能になっているのは、ガッチリと組み上げられたシャシーの剛性が、サスペンション各部の取り付け点を微動だにさせないからだ。
アダプティブダンパーで荷重の移動を制限しようと思ってもシャシーのよじれで四輪の接地圧が揺らいでしまえば、さしもの電制も十分に能力を発揮できない。硬いシャシーは他の部分の能力も底上げするのだ。
これによって、荷重が必要以上にフロントに移動しないので、リヤタイヤの接地圧が従来より高いレベルに保たれており、ブレーキ時にリヤタイヤのグリップが積極的に使える。安心感がありフィールが良いだけではなく、制動距離そのものも短縮されているはずである。
関連記事
- 好決算のスバルがクリアすべき課題
今回はスバルの決算が良すぎて、分析したくてもこれ以上書くことが無い。本文で触れた様に、研究開発費は本当にこれでいいのか? そして価格低減の努力は徹底して行っているのか? その2点だけが気になる。 - スバルはこれからもAWD+ターボ+ワゴン
スバルは東京モーターショーで新型レヴォーグを出品した。レヴォーグはそもそも日本国内マーケットを象徴するクルマである。スバルは、日本の自動車史を代表するザ・ワゴンとして、レヴォーグはGTワゴンという形を死守する覚悟に見える。 - 変革への第一歩を踏み出したスバル
新広報戦略の中で、スバルは何を説明したのか? まず核心的なポイントを述べよう。今回の発表の中でスバルが「次の時代のスバルらしさ」と定義したのは、従来通りの「安心と愉しさ」で、その意味において従来の主張とブレはない。従来と違うのは、その「安心と愉しさ」とは何なのかについて、総花的にあれもこれもありますではなく、もっと具体的言及があったことだ。 - スバルよ変われ
スバルが相次いで不祥事を引き起こす原因は一体何なのか? スバルのためにも、スバルの何が問題なのかきちんと書くべきだろうと思う。 - スバルが生まれ変わるために その1
筆者を、スバルは北米の有力ディーラーへと招待した。ペンシルバニア州アレンタウンの「ショッカ・スバル」は、新車・中古車を合わせた販売数で全米1位。新車のみに関しても、全米最多級である。「スバルは他と違う」と、この自動車販売のプロフェッショナルは、本気でそう思っている。けれど、具体的に何がどう違うのかが全く説明されない。北米ビジネスの成功について、何の戦略があり、何をしようとしているのか、それを知りたいのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.