大手銀行の送金手数料値下げは本質的か? Fintech協会理事に聞く(2/2 ページ)
三菱UFJ、三井住友、みずほ、そしてりそな銀行が、個人間の送金手数料を引き下げる検討に入ったと、8月頭に報じられた。新興のキャッシュレスサービス事業者などから、チャージにかかる手数料が高いとたびたび指摘されており、政府もこれを問題視してきていた。こうした動きについて、直接の影響があるキャッシュレスサービス事業者はどう見ているのか。
――今回の手数料引き下げに銀行が動くことで問題は解決するのか?
神田氏 懸念はその部分だ。今回の動きが手数料の引き下げにつながることは評価すべき。だが、ベースの技術として既存のインフラ、システムをもとに、どれだけ手数料を下げられるかという議論に見える。そもそものインフラを見直して、抜本的なインフラ改革をすべきだという指摘もある。
キャッシュレス決済に限ってみると、送金手数料の高さは2つの問題を抱えている。1つは、利用者が銀行口座からチャージするときにコストがかかるため、少額のチャージが難しいことだ。もう一つは、決済後、利用した店舗に料金を支払う際に、振り込み手数料が高いと高頻度の振り込みが難しくなり、店舗の資金繰りに影響を与える(公正取引委員会資料より)
――どのような手数料環境が理想なのか?
神田氏 視点として重要なのは、ユーザーが安くて使いやすい決済のあり方だ。1件1件の少額送金は手数料をゼロに近づけていくべきだ。一方、中規模の決済、法人や事業者の決済については、ある程度の手数料になるだろう。
これまでは、銀行とベンダーが、これだけのシステムをこの金額で作ったので、1件いくらで顧客にコストを転嫁して提供しましょうという形だった。これからはユーザーにどのようなニーズがあって、どのくらいなら支払えるのか、ユーザーが求める価格を実現できるシステムはどのようなものかに基づいて、ユーザーが適正と思える対価を提供するべきだ。一般のビジネスと同じような発想の転換が求められている。
J-Debitのインフラをベースに実現しましょう、というのは従来型の考え方を抜け出していない。
いまの全銀ネットのインフラをベースにしていては、値下げに限界がある。次世代の全銀ネットなのか、別のインフラなのか、違うものが求められている。スケジュールは出ていないが、一般的には全銀ネットは8年に1回更新する。つまり2027年くらいには次のシステムが稼働することが想定されている。少なくともそこまでには、新しいシステムのあり方が定まっている必要がある。
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