『半沢直樹』が人気なのは、「パワハラの被害者が増えているから」は本当か:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
ドラマ「半沢直樹」が高視聴率を叩き出している。人気の背景に、「庶民の留飲を下げるような勧善懲悪のストーリーであることが大きい」といった指摘があるが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。どういうことかというと……。
半沢直樹も「世話物」
「パワハラされたストレスをドラマで発散というが、人間はそんなに単純ではない」というお叱りを頂戴しそうだが、ハラスメントで心身を追いつめられた人間は我々が思っている以上に単純な行動に走ることが分かっている。
日本労働組合総連合会が行った「消費者行動に関する実態調査」によると、一般消費者の中で、商品やサービスについて苦情やクレームを言った経験がある割合が39.2%だったことに対して、接客業務従事者の中では58.6%と高い割合となった。つまり、他人からハラスメントを受けた人は、「自分がやられた嫌なことは他人にするのはやめよう」という発想になるものかと思いきや、「やられたらやり返す」でスッキリしている人もかなりいるのだ。ならば、パワハラ被害者が行き場のない怒りや不満を半沢直樹で発散していたってなんら不思議ではない。
さらに、筆者がそう強く感じるのは、冒頭で紹介したように、このドラマが「現代の歌舞伎」ととらえられていることも大きい。歌舞伎の演目は単なる「つくり話」ではなく、その時代を生きた庶民の愛憎、悩み、葛藤などが写実的に描かれた「ドキュメンタリー」の側面もあるからだ。
ご存じの方もいらっしゃるだろうが、歌舞伎には「世話物(せわもの)」という、当時の現代劇ともいうべきジャンルがある。「庶民の日常的な暮らしにおける義理や情愛の葛藤が扱われ、写実的な演出や演技で描かれる」(日本芸術文化振興会Webサイト)というもので、時に実際にあった事件やスキャンダルも題材にされる。例えば、有名な「仮名手本忠臣蔵」は元禄の赤穂事件をベースにしているが、舞台では室町時代の設定に置き換えられている。
そのような意味では、半沢直樹も「世話物」と言っていい。ドラマに登場する帝国航空はJAL、電脳雑技集団はライブドア、と現実にあった事件をベースにしているからだ。
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