日本勢の華麗なる反撃 アイサイトX:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
高度運転支援システムにまつわる「考え方」的な諸問題を解決し、使いやすく便利で、なおかつモラル的な逸脱をしっかり抑制したADASへと生まれ変わったのが、今回デビューしたアイサイトXだ。また大袈裟だといわれるのを覚悟して書くが、アイサイトXは、2020年の時点では世界最高のADASだといえるし、少なくとも市販モデルに搭載されたシステムとしては、最も自動運転に近づいたシステムである。
ADASの質を高める
さて、ここまで、機能のあるなしの話をしてきたが、ドライバーにとってより大切なのはその操作フィールである。加減速にしても操舵(そうだ)にしても、乱暴な操作をされるくらいなら自分でやった方がはるかにマシだと考える人は一定数いる。
今回体験したアイサイトXは、あらゆる操作について、その制御のうまさというか運転のうまさにおいて、完成度が極めて高い。先ほど「2020年の時点では世界最高のADASだ」と書いた理由はここにある。
例えば、普通のドライバーは、高速道路で大型貨物を抜く時と、軽自動車を抜く時とでは、左側の余裕の取り方を変える。これはまだどのシステムも自動ではできないから、こういうケースではドライバーが車線内での位置取りを変える。
わずかに車両を右に寄せたい。こういう時、システムが進路を維持しようとする力に逆らってドライバーはステアリングを操作する。そういう主導権争いでの反力の設定がスバルは絶妙にうまい。例えばテスラ Model 3はこれが決定的にダメだ。強い力で抵抗し、それに打ち勝つためにドライバーは相当な力でハンドルを切り、システムが降伏した時は力余って進路が揺れる。クルマがやりたいことをドライバーが邪魔するなという意思を感じるほどである(Model3試乗記事参照)。
前方への割り込みや、前方車両の離脱などで加減速する時の躍度(やくど、加・加速度)においても、不快感が無い。マツダのシステムは現状ここで、急な躍度を付けてしまう悪癖がある(マツダインタビュー参照))。
トヨタのシステムは車両によって多少の凸凹があるが、比較的良い線をいっている。しかしながら前方車両の離脱に伴い加速を始めるタイミングの遅れなどを含めて見ると、どうもアイサイトXの方がより自然に仕立てられているように思える。
これらの点を見ても、アイサイトXの完成度は相当に高い。ただ、まだテストコースでの限られた試乗であり、そこでの課題はアイサイトXを体感するためにスバルが用意した種目である。公道でリアルな交通の中で試してみないことには、最終結論とするには少々早い。けれども、そこに大いなる期待を持たせる出来に仕上がっていると思う。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、Youtubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
関連記事
- アイサイト 分かりにくい誠実と分かりやすい不誠実
スバルがレヴォーグに「アイサイト・ツーリングアシスト」を搭載。都内で行われた試乗会でこのツーリングアシストをテストした筆者はとても混乱した。それは……。 - レヴォーグで提示されたスバルの未来
シャシー性能に注力したスバルの改革は、本当にスバルに相応しい戦略だ。すでに何度も書いてきているが、フラット4の余命はそう長くない。CAFE規制の今後を見れば、少数生産の特殊エンジンとして生き残ったとしても、いつまでも主力ではいられないだろう。その時「スバルの走りとは何か?」と問われたとして、このレヴォーグのSGPセカンドジェネレーションには十分な説得力があり、スバルがスバルでい続けられる理由が相当に明確になった。 - 好決算のスバルがクリアすべき課題
今回はスバルの決算が良すぎて、分析したくてもこれ以上書くことが無い。本文で触れた様に、研究開発費は本当にこれでいいのか? そして価格低減の努力は徹底して行っているのか? その2点だけが気になる。 - スバルはこれからもAWD+ターボ+ワゴン
スバルは東京モーターショーで新型レヴォーグを出品した。レヴォーグはそもそも日本国内マーケットを象徴するクルマである。スバルは、日本の自動車史を代表するザ・ワゴンとして、レヴォーグはGTワゴンという形を死守する覚悟に見える。 - 変革への第一歩を踏み出したスバル
新広報戦略の中で、スバルは何を説明したのか? まず核心的なポイントを述べよう。今回の発表の中でスバルが「次の時代のスバルらしさ」と定義したのは、従来通りの「安心と愉しさ」で、その意味において従来の主張とブレはない。従来と違うのは、その「安心と愉しさ」とは何なのかについて、総花的にあれもこれもありますではなく、もっと具体的言及があったことだ。 - スバルよ変われ
スバルが相次いで不祥事を引き起こす原因は一体何なのか? スバルのためにも、スバルの何が問題なのかきちんと書くべきだろうと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.