“ファーウェイ排除”本格化で5Gの勢力図はどうなる? エリクソン、サムスンの動きとは:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
米政府によるファーウェイへの半導体輸出規制が強化された。同社が半導体を入手できなくなれば、シェアトップを誇る5Gの機器にも打撃となる可能性がある。5Gを巡る勢力図は米国の介入によってどう変化しているのか。韓国のサムスンも存在感を見せ始めている。
5Gでシェア拡大を狙うサムスン
米政府がファーウェイへの攻勢を強化する中、サムスンは19年に入ってから5G分野に3年間で220億ドル(約2兆4000億円)を投資すると発表している。そして20年までにシェアを20%にすると意気込んでいたが、現在はまだ13%ほどのシェアにとどまっており、残念ながらその目的は達成できていない。それでも、先行きは悪くないようだ。
実は米政府が19年に最初に公式にファーウェイ排除に乗り出した後、筆者は米情報機関関係者への取材で、「ファーウェイは排除されるが、米情報機関でサムスンはOKだという判断が出ている」と聞いた。その当初から、米政府はファーウェイに代わってサムスンにも期待していたようだった。ただ人材確保などで苦労していたらしいが、5Gの特許取得件数はファーウェイに次いで2位につけている。
そしてサムスンは9月7日、同社の5G事業にとって重要な発表をした。米ベライゾンとの約67億ドルの契約を発表したのである。25年までにベライゾンに5G機器などを提供することが明らかになった。これはサムスンにとって、5G分野での大躍進だと話題になった。ベライゾンとの契約を結んだことは、今後、世界的にも信用材料となるだけでなく、PR材料としても効果的だろう。さらなるシェア拡大の足掛かりになる可能性もある。
ここまで見てきた通り、5Gは米中覇権争いからシェア争いにまで発展して、いまだにせめぎ合いは続いている。ただし、米国の動きでまた形勢が変わる可能性もあり、予断を許さない状況が続いているのも事実だ。
次の重要な局面は米大統領選の結果。米国の対中強行路線はそう変わることはないだろうが、今後、どこがファーウェイを超えていくのか注目である。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
関連記事
- データも人材もファーウェイに流出? 倒産するまで盗み尽くされた大企業に見る、中国の“荒技”
2009年に倒産したカナダの大手IT企業が、中国から継続的なサイバー攻撃を受けていたことが報じられた。ファーウェイなどに情報や人材が流出したと見られている。コロナ禍で体力が弱った日本企業も標的になっており、すでに工作が始まっていても不思議ではない。 - 禁止か買収か TikTokがトランプの目の敵にされる「4つの理由」
人気アプリ「TikTok」を巡って、米中の混乱がさらに深まっている。なぜ米政府はTikTokの禁止や買収に言及しているのか。トランプ大統領がこのアプリを禁止したい理由は4つある。TikTokに逃げ道は残されておらず、こういった締め付けは今後も続く可能性が高い。 - 「シリコンバレーは中国に屈する」 Google元会長のエリック・シュミットが声高に唱える“危機感”
トランプ大統領が中国の脅威を煽っているが、Googleのエリック・シュミット元会長も、AIの分野で中国への危機感を主張する。中国は人権を無視したデータ収集や企業への巨大投資によって、スマートシティ構想を加速。日本も含めて、研究開発を進めないと追い付けなくなる。 - ファーウェイのスマホは“危険”なのか 「5G」到来で増す中国の脅威
米国が中国・ファーウェイの通信機器を使わないように友好国に要請していると報じられた。なぜファーウェイを排除しようとするのか。本当に「危険」なのか。その背景には、次世代移動通信「5G」時代到来によって増大する、中国の脅威があった。 - 僕らのヒーローだったジャッキー・チェンが、世界で嫌われまくっている理由
香港アクション映画の象徴的存在、ジャッキー・チェンのイメージダウンが止まらない。隠し子である「娘」の振る舞いや、自伝で語られた「ダメ人間」ぶりなどが欧米やアジアで話題になっている。私たちのヒーローだったジャッキーに何が起きているのか。 - 中国が着手した「6G」って何? 5Gから10年先の“覇権”を巡る思惑
米国や韓国、中国が「5G」の通信サービスを開始。一歩遅れた日本も2020年にスタートする。そんな中、中国が早くも「6G」の研究を始めたと発表。現実的な話なのか。今、“6Gの世界”を想像することは難しいが、日本もうかうかしていられないかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.