減損テストから見る、コロワイドが新潮にブチ切れた理由(後編):専門家のイロメガネ(4/4 ページ)
大戸屋へのTOBを成功させた外食大手のコロワイドが、新潮社に対してブチ切れている。デイリー新潮の記事で、コロワイドが計上している「のれん」に価値はなく、これを「減損」すれば債務超過に陥ると指摘しているからだ。決算書に意図的な間違いがあれば粉飾決算となり、最悪の場合は上場廃止もあり得る。ではコロワイドの決算書は適正なのだろうか。今回は公認会計士の立場から「減損テスト」について解説してみたい。
コロワイドの「公認会計士等の異動に関するお知らせ」によると、監査法人を交代する目的は、(1)新たな視点での監査が期待できること、(2)必要とされる専門性、独立性、品質管理体制及びグローバルな事業を一元管理する体制を有していること、の2点が挙げられている。
前任のあずさ監査法人は1999年4月から実に21年もの長期間にわたって継続監査を実施しており、新たな視点で監査を期待するために交代を決定したという。
会計監査人の交代に関しては、長期間同じ会計監査人を利用することによる癒着リスクがたびたび指摘される。現に欧州では癒着リスクを避けるために会計監査人の定期的なローテーションを導入している。
長期間の会計監査人との関係は株主などから癒着している見られる可能性があり、そこも考慮して会計監査人を交代したのではないか、というのが著者の推測である。いずれにせよ、公表された情報を確認した限り監査法人の交代について問題はなく、むしろ望ましいといえる。
さらに、仮に会計監査人がコロワイドの会計処理やその根拠に本当に納得していないのであれば、その意見表明において、不適正意見、意見不表明や限定付き適正意見など、適正意見以外の意見表明、つまり何かしらの問題点や疑問点があることを表明することはあり得る。
そのような意見は出ていないことから、監査法人はコロワイドの決算を適正であると認めている。にもかかわらずデイリー新潮で指摘されていることは「のれんの計上に問題があり、監査法人も監査法人の交代にも問題がある」と、まるでコロワイドが粉飾決算をするために監査法人を変更したかのような指摘になっている。
もちろん、結果的に今後買収した企業が業績を大きく落として減損せざるを得ない可能性はある。将来の業績は誰にも分からず、コロナ禍で多数の飲食業が業績を悪化させているからだ。
ただ会計ルール上で、間違った計算をしているのではないか、それを無理やり押し通すために監査法人を変えたのではないか、という主張であれば、これは極めて乱暴な指摘になる。コロワイドが法的に対応すると強い反応をするのも当然だ。
コロワイドと新潮のトラブルがどのような結末を迎えるかは分からないが、コロナ禍で大きなダメージを受けた飲食業界が早期に回復することを祈るばかりだ。
プロフィール:村上裕一 公認会計士
監査法人、大手メーカー、税理士法人の勤務を経て、監査、経理・財務、税務顧問、会計コンサルティングなど幅広く経験を積む。現在は会計コンサルタントとしてM&Aや事業戦略の支援を手掛ける。経営者の「相棒」を目指し、クライアント支援に奮闘中。趣味はゲームで一番ハマったのはドラゴンクエスト(シリーズ全てプレイ)。ゲーム業界にも明るい。1984年生まれで二児のパパ。
企画協力 シェアーズカフェ
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