完全無借金だったサイゼリヤがコロナ禍で下した決断 すかいらーくとの違いとは:決算書を比較(3/4 ページ)
飲食業界の2大企業であるすかいらーくHDとサイゼリヤ。両社の経営スタイルにはどんな違いがあるのか。決算書を分析。
貸借対照表から見えるもの
次に、貸借対照表に目を移してみます。飲食店は現金(今ではキャッシュレス決済も含みます)商売であり、売掛金の回収などの問題は生じません。そのため、債権回収に要する期間などはあまり意味のない数字です。業種によっては、数字自体が出せたとしても、その数字に意味がほとんどないということもあります。やみくもに数字を比較するのではなく、事業の性質を理解したうえで数字を比較することが重要です。
チェックするポイントとしては、負債部分になります。上場企業の負債となると、引当金を始めいろいろな科目が計上されています。今回は、借入金に注目してみます。
サイゼリヤの貸借対照表を見ていると、1つ気付くことがあります。それは、借入金がないことです(詳細は後述しますが、新型コロナウイルスの影響により、7月に発表した第3四半期決算では短期借入金を計上しています)。この規模の企業で完全に無借金というのは、相当に財務が健全な証です。
ちなみに、「実質無借金」という言葉があります。借入金はあっても、それを上回る現金預金があって、いつでも借入金を返済できる状態にあることです。一方、サイゼリヤのようにそもそも借入金がない状態を「完全無借金」といって区別しています。実質無借金の企業は多いですが、完全無借金となるとそう多くはないでしょう。
完全無借金経営を行ってきた企業が融資を受けるということは、相当な方針転換です。それだけ新型コロナウイルスの影響が長引くことを懸念しているのです。20年5月期の第3四半期の決算書には、短期借入金として100億円が計上されています。
債務償還年数は、貸借対照表上の借入金の合計を営業活動によるキャッシュフローで割って計算するものです。今ある借入金を返そうとした場合、どの程度の年数で返せるのかといったことを見るのに使われる指標です。営業活動によるキャッシュフローとは、簡単にいえば本業(つまり飲食店事業)から得られているお金のだと捉えておけばよいでしょう。
中小企業では債務償還年数は5〜7年ほどになりますので、すかいらーくの1.9年はかなり短い年数です。それだけ財務が健全なのです。サイゼリヤは今回借り入れした100億円を加味したとしても、0.6年ですので財務は十分健全といえます。
どのような指標にしても、新型コロナウイルスの影響が色濃く出る2020年の決算はかなりの悪化が予想されます。それでもこれだけ健全な財務状況を保っている2社であれば、数年落ち込んだとしても復活できる強さを持っているといえます。
関連記事
- 僕らのヒーローだったジャッキー・チェンが、世界で嫌われまくっている理由
香港アクション映画の象徴的存在、ジャッキー・チェンのイメージダウンが止まらない。隠し子である「娘」の振る舞いや、自伝で語られた「ダメ人間」ぶりなどが欧米やアジアで話題になっている。私たちのヒーローだったジャッキーに何が起きているのか。 - スシローとくら寿司 「価格帯」と「シャリ」から見えた戦略の“決定的”な違いとは
大手回転寿司チェーンのスシローとくら寿司。標準的な寿司の重さはほぼ一緒。しかし、価格とシャリの違いから戦略の違いが見えてきた。 - 「タピオカバブル」がコロナで大崩壊 “聖地”原宿の閉店ラッシュと各社の生き残り策
タピオカバブルが新型コロナウイルスの影響で崩壊した。タピオカ専門店が集中する東京・原宿では閉店が相次ぐ。各社の生き残り策とは? - 「生ビール190円」の原価率は85%? お客が3杯飲んでもしっかり利益が出る仕組みとは
「生ビール1杯190円」という看板を見かける。安さでお客を引き寄せる戦略だが、実は隠されたメリットもある。どんな狙いがあるのか。 - お客が300万人増えないと割にあわない!? サイゼリヤがキャッシュレス決済導入に慎重になる理由を考察
キャッシュレス決済を導入する飲食店が増えている。大手チェーンの中でサイゼリヤは導入に慎重な姿勢だ。その理由をビジネスモデルから考察する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.