小学生も株式投資? ベテラン投資家の脳裏によぎる“ライブドアのトラウマ”:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
コロナ禍を機に投資デビューを果たす人々が急増している。ただでさえ資産運用を行っている人の比率が高い米国においても、コロナ禍で数百万もの潜在口座を掘り起こしたと考えると、足元の投資ブームは世界的な動きだ。ただし、景気に波があるのと同様に、株式市場にも波がある。いずれ来るであろう急落への注意が今後求められてくるのかもしれない。この記事を執筆している9月23日は靴みがきの日であるという。この「靴磨き」という言葉は投資とゆかりの深い言葉だ。
日銀の統計からは投資ブームが見えない?
9月18日に日本銀行調査統計局が公表した2020年第二四半期の資金循環統計(速報)によれば、家計の金融資産は1883兆円と、調査開始来で2番目に高まった。特に、10万円の給付による現金・預金への流入が著しく、6月末には前年比で4%も増加した。
一方で、株式は前年比で4.3%の減少だった。確かに3月末の15.6%減少からは11.3%ほど反発しているが、3月から6月にかけての日経平均株価は17%も上昇している。株価変動の影響を除くと、統計からは家計がコロナ禍で5.7%もの株式を手放したという結果になる。
ではライブドア相場ではどうだだったろうか。ライブドアショック前後の04年〜07年に注目すると、同社の快進撃が続いた05年に家計の株式持分が大幅に増加していることが分かる。株価が堅調に推移した07年に「株式」の保有額が減少していることから、株式の評価額によって増減したというよりは、ライブドアショックによって個人投資家の選好する銘柄が痛手を被ったことで、持ち高を減らすことになった様子がうかがえる。
ここから考えると、コロナ禍による投資ブームは、ライブドア相場にみられた株式の持ち高急増がみられず、数字でみると信ぴょう性が高くないようにみえる。
これは、東京証券取引所が公表する「投資部門別売買動向」からも同様の結論を導けそうだ。20年1月の個人投資家による東証1部市場における月間売買代金は13.5兆円で、8月には15.6兆円と15%ほど増加した。8カ月で15%の伸びというと大きいようにも思われるが、アベノミクス始動時などと比較するとそれほど過大な伸びともいえない。
アベノミクス始動時、12年12月に11.5兆円に過ぎなかった個人投資家の売買代金は、翌月には20.1兆円までほぼ倍増した。ここから考えると、伸び率で考えても、15.6兆円という数字で考えても、過熱感がピークに達したとは言いづらいとも思われる。
また、投資スタイルの違いにも注目したい。ライブドアショック時には、その名を冠する「ライブドア」をはじめとした関連数社に人気が集中しており、投機的な側面が強かった。しかし、現在の投資ブームは特定銘柄というよりも、インデックス投資や積立NISAといった中長期目的の投資も増加しており、特定銘柄の動向がポートフォリオに与える影響は小さくなっているとみるべきだろう。現に、冒頭のテレビ番組で取り上げられた小学生投資家も、さまざまな銘柄に分散投資を行っていた。
ここから、新規で口座を開設した証券会社の顧客の多くは、ライブドア相場の時のように一度に大量の資金を投入するのではなく、少額・分散・中長期目的で資金を投入しているとみられ、統計値として全体の数字を動かすほどの影響には至っていないと考えられる。
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