丸亀製麺の売上高が対前年比90%まで回復 カギは「衛生マーケティング」と持ち帰り専用容器:飲食店を科学する(5/5 ページ)
コロナ禍に苦しむ外食産業。一方、丸亀製麺の売り上げ(8月)は対前年比90%まで回復した。どういった施策を行ったのか。
コロナ禍でも前年超えの立ち飲み居酒屋がやっていること
名古屋にある居酒屋「立呑み 焼きとん 大黒」を紹介します。系列店はどこも10坪程度の小さなお店ですが、創業以来「QSC向上」を徹底しています。
08年に単価90円からの焼きとん串をメインとした立ち飲み業態として愛知県で創業しました。そのQSCレベルの高さから多くの常連客から支持され、現在では愛知県外にも直営店とフランチャイズ(FC)店舗展開を行っています。
通常、繁華街にある飲食店は、グルメサイトの掲載に販促費をかけることで一定の集客を獲得しているケースが多いです。一方、焼きとん大黒ではグルメサイトなどへの販促費を一切かけていません。
販促費をかけない代わりに行っているのが「お客さまとのコミュニケーション構築の仕組み化」です。焼きとん大黒では、創業時から店内のイベントに力を入れてきました。例えば、常連のお客さまを巻き込んだスタッフの誕生日会や、他の地域に転勤する常連のお客さまの送別会など、毎月さまざまなイベントを企画し「お客さま満足」を高めてきました。
また、毎月新商品を開発し、常連のお客さまにメールやSNSを通じてPRを行い、来店促進をする「ダイレクトマーケティング」にも力を入れています。
さらにすばらしい点は、通常の飲食店ではマンパワーに依存してしまいがちなQSC向上に向けた取り組みを「目標化」した上で、独自開発のアプリで全て管理していることです。QSC向上において重要となる「業績指標=KPI(Key Performance Indicator)」を、Webシステムを通じて教育・管理しています。そして、店舗のQSCレベルアップを実現しているのです。 それは正に「人材育成のデジタルトランスフォーメンション」と言えます。
さらには、各自が獲得したKPIポイントを社内仮想通貨のように可視化しており、社員の賞与やアルバイトのインセンティブなどに反映させています。ポイント付与の基準としても、単なる業績結果だけではなく「イベント計画をしたら〇〇ポイント」「社内資格を取得したら〇〇ポイント」といったように、個人の頑張りやプロセスをポイントに還元していく仕組みが社員のモチベーションアップに大きく寄与しています。
同店の徹底したQSCはコロナ禍においても大きな効果を発揮しました。7月になり、長引くコロナ禍による影響を心配した多数の常連のお客さまが同店を訪れるようになったのです。
7月といえば、全国の繁華街にある居酒屋の多くは、売り上げが対前年比50〜60%で推移していました。しかし、焼きとん大黒は対前年比100%以上の実績を出していました。
最近では、コロナ禍でバイト先を失い、退学を検討せざるを得ない多くの大学生がいるようです。しかし「立呑み 焼きとん 大黒」では、こうした大学生などを採用し、雇用創出にもつなげています。そして、このようにして雇用したスタッフの頑張りにより、さらに店舗のQSCレベルが高まっていくという「正のスパイラル」を実現しています。
ウィズ・アフターコロナ時代を生き抜くための「魔法の戦術」は存在しません。小手先の販売促進手法も通用しません。
「QSC向上に向けた毎日の努力の積み重ね」が今まで以上に大切になっていきます。
少しでも皆さまのご参考になれば幸いです。
最後までお読み頂きありがとうございました。
著者プロフィール
三ツ井創太郎
株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食店専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う傍ら、日本フードビジネス経営協会の理事長として店長、幹部育成なども行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。
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