本当に大丈夫? 菅首相の「地銀再編」発言が、再び“失われた10年”を呼びそうな理由:「第4のメガバンク」構想も難しそう(1/5 ページ)
菅首相がしきりに口にする「地銀再編」。確かに苦境に置かれる地銀だが、再編はうまくいくのだろうか。筆者は過去の長銀破綻を例に出し、また「失われた10年」来てもおかしくないと指摘する。
安倍晋三前首相の辞任を受け、自民党総裁選を経て、菅義偉新首相が誕生しました。本人自ら語っているように、政策の基本方針はアベノミクスの継承です。その中で独自カラーを出そうとしているものがあるとすれば、一つは菅首相が官房長官時代から持論として展開してきた携帯電話料金の引き下げ。それとともに自民党総裁選立候補の折から盛んに口にしていたのが地銀再編です。
「地方銀行は数が多すぎる」「統合も一つの選択肢」というややソフトな言い回しにとどまってはいますが、事あるごとにこの問題に言及しているところをみると、まじめな気質の新首相がこの問題にかける本気度が伝わってくる気がしています。地銀にとって、いや日本経済の先行きにとって、この新首相の思い入れは果たして吉と出るのでしょうか、凶と出るのでしょうか。
事実、地銀の今は「苦しい」
まず現状での地銀の置かれた立場をみてみれば、それはかなり苦しいということが分かります。報道によると、上場地銀78行(一部はグループ)のうち実に6割が連結の本業損益で減益または赤字、かつ78行合算での純利益は20年3月期まで4年連続で減少中とまだまだ底が見えない、言ってみれば未曽有の危機状態なのです。
多くの赤字地銀の経営者は危機的な立場に立たされていながら、いまだこれといった策を講じるでもなく、マイナス金利の苦しい経営環境が好転するのを息をひそめて待っているかのようでもあり、菅首相の発言はこのような状況にしびれを切らしたものとも受け取れます。
では菅首相の言う「地方銀行は数が多すぎる」「統合も一つの選択肢」はどうなのか、と言えば、その言葉自体はひとまず間違っていないとはいえるでしょう。しかし、地銀再生に向けて統合が選択肢の一つである、というのは既に金融庁が数年前から口にしている言葉です。それでも思ったほどには統合が進んでいないのはなぜなのでしょうか。
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