都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?:呉越同舟の地方創生(1/4 ページ)
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。
ネット証券大手のSBIホールディングスが、日本政策投資銀行、新生銀行、山口フィナンシャルグループらと、地方創生を推進する「地方創生パートナーズ」の設立で基本合意したと発表しました。SBIの出資比率は50%を超えるという報道も出ています。かつて金融機関に身を置き、旧大蔵省との折衝を担当したこともある筆者の感覚からすれば、「証券界の暴れん坊」という異名を持つSBIが元日本開発銀行である政府系超エリート政策金融である日本政策投資銀行から出資を引き出したというニュースには、ちょっとした驚きを禁じえませんでした。
日本政策投資銀行が出資を決めたという事実の裏には、金融庁の存在が見え隠れしています。いまだ公的資金の返済に苦慮し政府が大株主であり続けている新生銀行が同じく共同出資者として名を連ねていることから、本スキームに関する金融庁の後ろ盾が確実視できるからです。すなわち、金融庁がこの事案に対して並々ならぬ肩入れをしている、そんな構図が浮かんできます。ではなぜ金融庁が、「証券界の暴れん坊」であるSBIの構想にここまで肩入れをしているのでしょうか。
金融庁にとってここ数年で最も大きい悩みのタネは、地銀の経営環境悪化とその先行きに対する不安です。長らく国内の預貸業務を主な収益源としてきた地銀ですが、2016年の日銀マイナス金利政策以降その経営状況は急激に悪化の一途をたどっています。19年度決算で4割の地銀が赤字、7割が減益という状況にあり、これを受け金融庁は存続が危ぶまれる地銀に対して02年に制定した早期警戒制度を初適用し、より緊急度が高い10行程度を重点監視対象として指導に入りました(重点監視対象行数、対象銀行名は非公表)。
このような金融庁の動きと相前後して、「地銀救済」の旗印を上げたのがSBIホールディングスでした。19年9月に北尾吉孝CEOが「地銀連合構想」をぶちあげると、赤字に陥っていた第二地銀である島根銀行への出資を発表しました。当然、この手の話は監督官庁である金融庁の内諾なしに進められるものではなく、事前にお伺いを立てているはずです。すなわち金融庁はこの段階で既に、SBIの「地銀救済」を前向きな姿勢で受け止めたと理解できます。そんな金融庁の後ろ盾もありSBIはこの後、島根銀行同様に経営悪化が伝えられる福島銀行、筑邦銀行、清水銀行に出資し、着々と「連合」拡大を進めています。
過去、金融庁はSBIグループに対して、内部管理に関するコンプライアンス違反やシステム管理体制不備などで複数回の行政指導を行っており、SBIの「証券界の暴れん坊」という異名は金融庁にとっては「要注意マーク」的存在であることの象徴ともいえます。それでも金融庁がこの「地銀連合構想」を前向きに受け入れたのには、地銀改革に対するただならぬ危機感があるからに他ありません。では金融庁は地銀再生に関してどのような思惑を抱いてSBIに擦り寄っているのか、私の過去の経験・知識からそのヒントをひもといてみます。
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