都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?:呉越同舟の地方創生(2/4 ページ)
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。
大蔵省が示した“ごみ箱”構想
私が出向という形で全国銀行協会に所属し、金融庁の前身である旧大蔵省銀行局まわりを担当していたのは、住宅金融専門会社の不良債権処理問題に端を発し金融危機が勃発した90年代後半です。当時、大蔵省が抱えていた最大の課題は、巨額の不良債権処理に苦しむ都銀をどのように整理・健全化させるかでした。そのためには当時でもまだ10行あった都銀の、統合による整理・合理化が必至であるとされていました。そんな最中の97年に都銀最下位行の北海道拓殖銀行(拓銀)が破綻し、残る9都銀の統合を急ぐ機運が高まり金融界は戦々恐々としました。
そんな折、銀行局のキャリア官僚のところに出入りしていた私は、ショッキングな話を聞かされます。「拓銀の破綻を受けて、地銀の改革はどう進めますか」という私の質問に対し、あるキャリア官僚は「地銀はまだ先。まずは都銀をこれ以上1行もつぶすことなく、いかに数を減らすかだ。今回のやり方が金融再生のスタンダードになるから、今はそれをよく見ておけ」と答えました。
「10行をどこまで減らせますか」という半信半疑の私の質問に、彼はここだけの話とした上で「3行+ごみ箱1」という衝撃の発言をして胸を張りました。「ごみ箱といっても、完全に捨て去るわけではなく一時退避させて再生を図る」と付け加えました。つまり、これからは3つの銀行を中心として、あとは余力のない都銀をまとめて1つにするという想定を示したのです。私は全くの無理筋だと思ったのですが、数年後に判明した結果はまさにその言葉通りになりました。「3メガバンク+りそな」という最終形となり今に至っているわけです。
ここで重要なことは、キャリア官僚の言葉にあった「ごみ箱」の存在です。金融当局として金融再生の過程において最も重視することは、金融不安を絶対に起こしてはいけないということでした。そのために重要性を増すのが、「ごみ箱」の存在なのです。「ごみ箱」は表現的にどうかと思うので、言い換えれば「再生箱」あたりでしょうか。90年代後半当時の金融行政はまだ当局主導ですすめられており、言ってみれば当局の裏指示によって統合もある程度先導され、「再生箱」も当局の指示でつくり指導を重ねていくことが可能でありました。しかし、当時から20余年のときをへた今、金融行政は大きく変わっています。
まず行政全般の姿勢として、「民の主体性を尊重して官は黒子に徹する」というような変化が起こりました。さらに金融庁は、金融指導当局の象徴であった検査局を廃止し、「指導」から「対話」へ基本姿勢を大きく変えました。すなわち銀行界の再編・統合に関して、主導的役割ではなくあくまで黒子としていかに民間主導を演出するか、という流れに変わっているわけです。となれば、先は急ぐとも都銀再生時のように当局主導で「再生箱」をつくるわけにはいかない、そんなジレンマの最中にSBIが「再生箱」づくりの名乗りを上げてくれた、そう考えると金融庁があえて「暴れん坊」の後押しをする思惑が明確に見えてくるのです。
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