都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?:呉越同舟の地方創生(3/4 ページ)
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。
透けて見える金融庁とSBIの攻防
一方のSBIの狙いは何でしょうか。生き馬の目を抜く証券業界を突っ走ってきたSBIの北尾氏が、単なるボランティアで「地銀救済」に乗り出すはずはなく、当然そこには商売の芽があるからこその救済宣言であるはずです。最大の狙いは、地銀が持っている優良個人顧客層、特に富裕層に対する自社金融商品の(地銀を通じての)販売拡大でしょう。
当然、表向きは地銀の収益拡大に資する施策としての販売支援ではありますが、万が一地銀が経営悪化などの危機的状況に陥った場合でも自社勘定として富裕層取引を引き抜くことも可能であり、SBIにとって得るものは大きいといえます。加えて富裕層の個人取引は、メガバンク各行も地銀との提携を通じて何とか取り込みを図りたいという数少ない国内業務の拡大指向領域であり、メガバンクを出し抜いて地銀で囲い込むという観点からもメリットは大きいはずなのです。
そうなるとやはり問われるのは、SBIの本気度でしょう。悪く考えれば、出資を餌に限界状態の地銀に近づいて自社収益に貢献させ、経営が悪化したら切り捨てるということも考えられなくはないわけです。気になるのは、これまでSBIが出資した4行のうち、島根、福島の先行2行には20〜30%の出資であったのに対して、筑邦、清水に対してはわずか3%の出資にとどまっている点です。北尾氏は「さまざまな形で地銀と連携する」と説明していますが、見ようによっては「いいとこ取り」の逃げやすい形態をとったともとれます。そもそも同じ金融機関というくくりではありながら、銀行は顧客とじっくり向かい合って成果を勝ち取る農耕民族文化であるのに対し、証券は狩猟民族文化ですから、油断はならないと金融庁も警戒しているのは間違いないでしょう。
ここからは個人的な臆測ではありますが、ここまでを踏まえて考えると今回の「地方創生パートナーズ」の設立は、あえて地方創生を掲げSBIの地銀救済の本気度を高めさせるため、あるいは“食い逃げ”させないために、金融庁がおぜん立てをして政府系の超エリート金融機関や国が株主の民間銀行を監視役にして立ち上げさせたものだったのではないか、と思えてきます。最新の報道では、地銀トップの横浜銀行を傘下に収めるコンコルディア・フィナンシャルの出資も決まったとか。まさに金融庁の暗躍が色濃く出ています。ちなみに金融庁は、時を同じくした金融機能強化法の改正において、苦境に立つ地銀に今後資本注入をした際はその返済期限を設けないという、いわば「永久公的資金」を創設しています。この背景には、SBIに見捨てられた地銀のラストリゾート的意味合いがあるのではないか、とすら見えてくるのです。
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