「新聞紙をトイレ代わりにせよ」……モンスター株主のトンデモ議案が無くならないワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
「役員及び社員は排便の際、洋式便器の便座の上にまたがるべき」「トイレットペーパーの代用品として、古い新聞紙で便座を作り、そこに排便すべき」。株主から三井金属鉱業に、こんな株主提案がなされた。取締役会はこれに大真面目に反対する書面を公開したが、なぜこんなトンデモ議案が再来するのだろうか。
5月13日に、三井金属鉱業が発表した1本の書面が、市場関係者をざわつかせた。なぜなら、ある株主が同社に向けて提案した議案の内容が、トンデモな内容であると話題になったからだ。
その株主の提案を受けて、取締役会が検討した10個の議案の中でも、「役員及び社員は排便の際、洋式便器の便座の上にまたが」るべきであるとの内容や、「トイレットペーパーの代用品として、古い新聞紙」で便座を作り、そこに排便すべき旨を定款に記載すべきであるといった内容が記載されている。これに対し、取締役会はそれぞれ数行にわたって、大真面目に反対する理由を記載している。
実は、このような事例は、上場企業においてそれほど珍しくなくなりつつある。同種の事例でいえば、野村證券に対するトンデモ議案が有名だ。同社は2012年6月に株主総会で、商号を「野菜ホールディングス」に変更すべきといった複数のトンデモ議案を、ある株主が提案し、全て否決されたことがある。
今回の事例も、そのようなモンスター株主によるトンデモ議案の再来であるといえる。なぜこのような些末(さまつ)な議案に対して、取締役会は丁寧に回答するのだろうか。
トンデモ議案も、「株主提案権」で保護される?
そもそも、このような株主提案であっても、原則として企業側は誠実に検討しなければならない事情もある。会社法303条では「6カ月」以上、総議決権の「1%」ないし「300個」以上の議決権を有する株主は「株主提案権」を有することとなる。
今回の事例で提案した株主は301個の議決権を有し、定められた期限内に株主提案を書面で通知していた。そのため、三井金属鉱業側も今回の提案自体は適法であるとの認識を示していたのだ。
適法な株主提案である以上は、その権利が濫用されていることが明らかでない限り、企業側は提案内容を無視できない。ここで安易にこのような株主の提案内容を無視してしまえば、提案株主からすれば「会社が恣意的に株主提案を握り潰している」と主張し、提案者が株主代表訴訟にうって出てくる可能性もある。
「どのような株主提案が権利濫用であるか」の基準は法令上明確でなく、裁判例も少ないため、万が一訴訟になった場合の損失は決して軽微ではないだろう。
しかし、文書で回答する場合でも関係役職員の工数を消化し、円滑な企業運営が阻害されてしまう恐れがある。仮に三井金属鉱業が今回のIRにあたり、5人程度の関係者がそれぞれ2時間の工数をかけたと仮定する。この場合、同社の販管費水準や平均年収などから、今回のトンデモ提案の処理にかかったと推定されるコストは20万円を下らないのではないかと筆者は推定する。
それでは、モンスター株主によるこのようなトンデモ議案に対処するために、会社や立法措置としてどのような防衛策が考えられるだろうか。
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