「新聞紙をトイレ代わりにせよ」……モンスター株主のトンデモ議案が無くならないワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
「役員及び社員は排便の際、洋式便器の便座の上にまたがるべき」「トイレットペーパーの代用品として、古い新聞紙で便座を作り、そこに排便すべき」。株主から三井金属鉱業に、こんな株主提案がなされた。取締役会はこれに大真面目に反対する書面を公開したが、なぜこんなトンデモ議案が再来するのだろうか。
「300個以上の議決権」が諸悪の根源?
実は、株主提案権は昨年にも改正が議論されていた。要旨としては、一回あたりの提案件数を制限したり、濫用的な株主提案権の行使を、会社の判断で拒否できたりするという法改正だ。しかし、やはり会社側の裁量で提案を拒否できてしまうと、経営陣にとって都合の悪い指摘や質問を、シャットアウトすることもできるという懸念の声も強く、改正が見送られたのだ。
では、立法的なアプローチとして、その他の方策は検討できないだろうか。ここで、多くのトンデモ議案が「1%以上の議決権」という要件ではなく、「300個(上場企業は3万株)以上の議決権」という要件を利用して提案されている点に注目すべきである。
例えば、野村證券の事例で考えてみると、足元の時価総額1.42兆円の1%を取得しようとすると、142億円もかかってしまう。一方で、「300個以上の議決権」という要件によれば、わずか1200万円程度の資金で野村證券に株主提案が可能だ。
「1%以上」の金額と「300個以上」の金額で全くバランスが取れていない現状では、「1%」という基準が機能していない点で法整備に穴があるといえるのかもしれない。
たしかに、株主提案権が制度化された当初こそは、1株あたりの価格が数十万円から数百万円を超える銘柄も珍しくなかった。そのため、「300個」の議決権要件によっていたとしても、今以上に株主提案のハードルは高かったといえる。
しかし、足元では、個人投資家の参入機会を増やすなどの目的で、投資単位の小口化という潮流が進んでいる。その結果、300個という基準が過去と比較して過度に小さな金額となっているのではないかと筆者は考える。したがって、立法的な措置として「300個」の議決権という絶対的な基準の見直しが求められるのではないだろうか。
しかし、このような立法措置に基づく対応は時間がかかる。会社側としての自衛策は検討できないだろうか。
“過度な小口化”の副作用
ここで、ウォーレン・バフェット氏がCEOとなっている、バークシャー・ハサウェイのA株式に注目したい。同社のA株は株式分割されないことで有名で、現時点の株価は26万ドルにものぼる。
バフェット氏は、その理由として、小口化によるコストの増加や、短期的取引の誘発といった理由で、メリットがないという認識を示しているといわれている。企業を1つのパイとして考えると、それを細かく切ったからといってパイの重量が増加するわけではない。同じように、株式の分割・小口化が、企業価値向上に資するとはいいかがたい。むしろ、増加する株主の管理コストがかかったり、モンスター株主に議決権が散逸してしまったりするというデメリットもあるだろう。
確かに、投資可能な小口投資家が購入できる価格まで小口化することは、需給的な要因としての株価下支え効果があるとも考えられる。しかし、業績ではなく需給に訴えるような株価の対策は、企業における本質的な経済活動とは、やや懸け離れているとも考えられるだろう。
したがって、株式の併合により議決権1個あたりの最低投資金額を高めることで、株主管理のコストを低下させ、モンスター株主の参入を抑制するという手段を取ることが有効であると筆者は考える。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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