「先送り」したいきなり!ステーキと「先手」を打った鳥貴族 コロナ禍で明暗分かれた「見通し」の差とは?:小売・流通アナリストの視点(4/5 ページ)
コロナ禍の傷がまだ癒えない外食産業だが、「勝ち組」と目されていた企業間でも明暗が分かれた。今回は、いきなり!ステーキと鳥貴族を例に、小売・流通アナリストの中井彰人氏が解説していく。
すし食べ放題の「雛鮨」やしゃぶしゃぶ「かごの屋」などを運営する同社は、多様な立地環境に合わせた業態を出店していく「マルチブランド、マルチロケーション戦略」を基本とし、外食産業における業態の陳腐化リスクを軽減することで、成長を続け、今では業界大手の一角にまで昇り詰めた企業だ。
こうした多様性豊かな業態を持っていると、はやり廃りは必ずあるものの、そのダメージは部分的なので流行している業態の成長で飲み込むことができる。ペッパーフードサービスは、いきなり!ステーキを会社の売上の大半を占めるまでに集中的に成長させてしまったため、消費者に飽きられた瞬間に会社として立ち行かない状況に陥ってしまった。繰り返しになるが、外食業界においてはこうした陳腐化リスクへの備えが、業界大手になれるか否かの関門になっているような気がする。
ただ、今回のコロナ禍は世界中を一斉に覆った災厄であり、こうしたリスク分散といった対策だけでは回避できるものではないのも事実だ。マスクを外して食事をすること、大人数で集まって宴会をすることなどは感染リスクがあると見なされる以上、外食業界は感染リスク対策に徹し、コロナ過が過ぎ去るまで、じっと耐え忍んで生き残るしかないのである。しかし、そうした時期であればこそ、アフターコロナを見据えた戦略を打ち出す企業もある。居酒屋界の風雲児である鳥貴族などはその最たるものかもしれない。
コロナ禍で見せた鳥貴族の「凄み」とは
鳥貴族は、居酒屋業態の中でも「勝ち組」として店を増やしてきた成長企業であるが、競争の激化や出店余地の一巡で一時的に踊り場にあったところに、コロナ禍の直撃を受け、業績が若干の赤字に転落している。しかし、直近のIR発表内容を見ると、そう暗い話ばかりでもないようだ。資料では、自粛期間に売り上げが激減したことや、自粛期間の解除後も7割程度しか客足が戻っていないことを報告。それとともに赤字金額が何とか耐えられる水準であることを訴え、当面の資金は確保されており、事業の継続性には全く問題ないということを弁明する内容だった。
一時期こそ鳥貴族といきなり!ステーキは、「急成長後の業績低迷企業」として一くくりで経営危機が報じられたこともあるが、結果としては事業継続への着実な手を打っていた鳥貴族と、先送ったいきなり!ステーキの運命は別れたのである。
鳥貴族の戦略として筆者が感心したのが、小型店業態「大倉家」の立ち上げである。コンセプトとしては、同社創業時の小さい店を復活させ、大人数の飲み会ではなく、1人でふらっと寄れる店を作る、ということらしい。
また、同社が社員に用意する独立制度(社員がフランチャイズ加盟店として独立して、経営者となることができる制度)の対象として開発したということだ。外食チェーンにおけるフランチャイズシステムは、社員に「独立して経営者となる!」という目標を持ってもらうという意味で、とても有効な仕組みであるとされており、この取り組み自体の納得性は高い。一方で、経験者ではなく脱サラ組を集めて加盟店を増やそうというコンビニに多いタイプのフランチャイズは、よほどしっかりした仕組みがない限り、うまくいかないことが多い。
鳥貴族の小型店で感心したのはそれだけではない。
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