「先送り」したいきなり!ステーキと「先手」を打った鳥貴族 コロナ禍で明暗分かれた「見通し」の差とは?:小売・流通アナリストの視点(3/5 ページ)
コロナ禍の傷がまだ癒えない外食産業だが、「勝ち組」と目されていた企業間でも明暗が分かれた。今回は、いきなり!ステーキと鳥貴族を例に、小売・流通アナリストの中井彰人氏が解説していく。
大ヒットが「一発屋」に転じるリスク
外食チェーンは流行する業態を産み出すことができれば、その業態の店舗を可能な限り急速に出店することで、チェーンを拡大して収益を最大化するのが一般的である。そのため、売れ筋業態を集中的に出店することはいきなり!ステーキに限らず「王道」ではある。しかし、外食業界の怖さは、大ヒット業態とはすなわち「一発屋」の可能性も高く、すぐに陳腐化してしまう可能性も高い、ということにある。大ヒットしたため、大量出店したはいいが、一斉に顧客に飽きられてしまい、業績の急激な悪化を招くという恐ろしい事態を招くことは往々にしてあるのだ。
つまりいきなり!ステーキにとどまらず外食チェーンにおいて、陳腐化リスク(お客が業態に飽きてしまうリスク)は永遠の課題の一つでもあり、通常はこうした陳腐化に備えるために、別業態を開発するなどしてリスク分散を図るものなのである。それでも単一業態が突出したことから店舗数を増やして、全体の業績を破綻に導いてしまうケースは後を絶たない。それは恐らく、結果を先送りしていけば事態が改善するかもしれないという、誤った経営判断をする経営者が少なくないからだとも思われる。
外食業界の経営陣は、元は小さな飲食店のオーナーである場合も多い。あえて言ってしまえば、「飲食店」のプロではあるものの、「チェーン企業の経営」には必ずしも向いていない場合は少なくない。顧客に支持されるお店づくりやメニュー提供は得意であっても、外食チェーンとして運営するノウハウは別物なのだ。はやり廃りの激しい外食チェーンにおいては、基本はさまざまな業態を組み合わせるように展開し、この業態が飽きられてきたら、別の業態で稼ぐ――といったリスク分散が必要になる。とはいえ、大ヒット業態をさらに拡大したいという誘惑はなかなか抑えきれないようだ。ステークホルダー等からの成長圧力という背景もあろう。
こうしたリスク分散を徹底しつつ、多様な業態を並行的に展開するビジネスモデルで、今や業界ランキングの上位といってもいい企業として、クリエイト・レストランツ・ホールディングスがある。
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