「先送り」したいきなり!ステーキと「先手」を打った鳥貴族 コロナ禍で明暗分かれた「見通し」の差とは?:小売・流通アナリストの視点(2/5 ページ)
コロナ禍の傷がまだ癒えない外食産業だが、「勝ち組」と目されていた企業間でも明暗が分かれた。今回は、いきなり!ステーキと鳥貴族を例に、小売・流通アナリストの中井彰人氏が解説していく。
図表で見る、「いきなり!」の凄さと脆さ
次の図をみても、この会社の成長スピードが「驚異的」であることは一目瞭然だ。
14年には年商100億円にも届かなかったのが、4年後の18年には600億円超と6倍以上に成長しているのだから、伸び悩む国内外食業界の中では出色の成長企業だということは間違いない。ただ、その急速な成長が自社競合を引き起こしてしまったため、不採算店舗などの閉鎖によって体制を建て直すと、いうことのようであるが、そんな簡単な話でもなさそうだ。それはこのチェーンの既存店売上増減率の推移をみていくとなんとなく見えてくる。
いきなり!ステーキ業態の既存店売上増減率を長期時系列に表示すると、次のようになる。
16〜17年辺りではプラスだった既存店売上増減率は、店舗数が増えてくるに従って急激に低下。18年4月以降はマイナスに転じ、80%台に突入している。さらに19年に入ると70%台から60%台まで落ち込むことになった。一方でその間、100店舗ほどだった店舗数は500店舗程度まで増加を続けたのだから、チェーンとして収益が急速に悪化することは避けられない。
普通に考えれば、既存店売上のマイナスが拡大している中で、出店を続けるなんておかしい、と思うだろう。しかし、先の図をもう一度見れば分かるが、18年12月期まではずっと「増収増益」だったのである。これが何を意味しているかといえば、店舗当たりの業績が悪化しているとしても、それを糊塗するほど大量に出店すれば、多店舗展開企業は増収増益という結果を維持できる、ということである。
ただ、その間に不採算店が急速に積み上がるため、ある時点で急速な業績の悪化に見舞われることになった。いきなり!ステーキは、業績の悪化を出店によって先送り、そのツケが一気に顕在化したことで経営危機に陥ったのであり、その要因は経営判断の誤りであることは間違いないだろう。つまり、コロナ禍がなかったとしても結果は大して変わらなかったのである。
外食業界においては、いきなり!ステーキのような事例は珍しいことではない。
関連記事
- 「脱・総菜」がカギ コロナ禍で好調の食品スーパー、乗り越えるべき50年来の“タブー”とは?
巣ごもり需要で軒並み好調の食品スーパーだが、今後は「脱・総菜」の取り組みがカギを握りそうだ。そのために必要なものとして、小売・流通アナリストの中井氏は50年来親しまれている食品スーパーのある売り方を挙げる。 - 半沢直樹を笑えない? 現実に起こり得る、メガバンク「倍返し」危機とは
7年ぶり放映でも好調の「半沢直樹」。「倍返し」に決めぜりふに銀行の横暴を描く姿が人気だが、どうもフィクションだけの話では済まない可能性が出てきた。現実のメガバンクに迫りくる「倍返し」危機とは? - 「5000円分還元」にとどまらないマイナポイント事業の効果と、真の狙いとは?
6月に終了したキャッシュレス還元に続く、マイナポイント事業。登録・利用で1人につき5000円分のポイント還元を受けられるが、それ以上に得られるものがあると筆者は解説する。キャッシュレス政策が持つ真の狙いに迫る。 - “密”になるほどの人気で売り上げ絶好調 「ホームセンター」はコロナを機に復権できるか?
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、多くの業界に出された休業要請から辛うじて外れたホームセンター。緊急事態宣言下でも“密”となるほど多くの人が訪れ、多くの企業が売り上げを伸ばしている。今回のコロナ禍を機に存在感を発揮できるか。 - コロナ禍は、地権者だけが得をする「不労所得スパイラル」を食い止められるか
コロナで大打撃を受けている小売り・飲食業各社。その副次的影響として、今後は都市圏を中心とした家賃相場の値崩れもあり得る。筆者は、大家ではなく消費者本位のビジネスが加速するチャンスだと主張する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.