鉄道業界で大流行の「SDGs」 背景に見える、エコテロリズムへの危機感:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
東急で環境保護などをうたったラッピング車両「SDGsトレイン」が走り始めた。こういった取り組みが鉄道業界でも浸透し始めている。環境に配慮した車両は以前から開発されてきたが、あらためてSDGsを発信する背景には、環境保護を訴える若者などへのメッセージの意図がある。
ざっくり言ってしまえば、これらは「SDGsという、なにやら道徳的なメッセージをテーマとした協同企業広告」のラッピングトレインである。後述するように、このSDGsというワードが、鉄道業界だけではなく、社会に急速に浸透し始めている。いや順序が逆か。SDGsが社会に浸透するなかで、鉄道業界の取り組みも始まった。
正直に言うと、訳の分からないローマ字略語が世の中にあふれ出して、なんだか気味が悪い。首相官邸が公表する「SDGs 実施指針」によると、2019年時点で日本人の4人に1人が認知している言葉だという。いったいSDGsとは何か。なぜはやり始めたか。誰がはやらそうとしているか。
SDGsは国連が定めた「人類の目標」
SDGsは、SDGsトレインの車体にも書かれた「"S"USTAINABLE "D"EVELOPMENT "G"OAL"S"」の略だ。日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。15年に国連が採択した「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(検討課題)」で、16年1月1日に発効した。アジェンダはビジネス分野で「提案内容」という意味でも使われているようだが、国連のアジェンダは「取り組むべき課題」という確固たる信念を示す。
その目標は17項目。それらを達成するための具体的なターゲット(目標)は169に及ぶ。それら全てを書き示すと膨大な文字数になる。詳しくは検索していただきたい。手掛かりとして、この言葉の根元は「国連広報センター」だ。また、ざっくりと鉄道業界がSDGsに沿っていると確信する根拠は「鉄道・運輸機構(JRTT)」が参考になる。
参考図書として、みくに出版の『SDGs 国連世界の未来を変えるための17の目標: 2030年までのゴール』(日能研教務部編集)がとても分かりやすかった。SDGsの成り立ちや周辺の知識もまとまっている。それにしても、私学の試験問題にまでSDGsが登場しているとは驚きだ。環境と社会を正しく理解するために大切な学問になっているようだ。
関連記事
- リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か
富士山静岡空港を利用した。コンパクトで機能的、FDAという拠点会社があることも強みだ。しかし、アクセス鉄道がない。空港駅はリニア工事問題で引き合いに出された不運もあった。新幹線ありきの計画を見直し、静岡県民のために最も良いルートを検討してもいいのでは。 - リモートワーク普及で迫りくる「通勤定期券」が終わる日
大手企業などがテレワークの本格導入を進める中で、通勤定期代の支給をやめる動きも目立つ。鉄道会社にとっては、通勤定期の割引率引き下げや廃止すら視野に入ってくる。通勤に伴う鉄道需要縮小は以前から予想されていた。通勤しない時代への準備はもう始まっている。 - 「急行電車の混雑」「エスカレーター歩行」はなぜ生まれるか リニアの必要性と“移動”の意味
急行電車の混雑、歩きスマホ、エスカレーター歩行の理由は、数分であっても移動時間を無駄だと考える人が多いから。移動時間を短縮の工夫が重ねられてきたが、テレワーク普及によって移動しない選択肢も出てきた。しかし、移動が必要な場面はなくならない。価値が高い仕事や行動にこそ、リニアが必要になる。 - ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け
第三セクター鉄道40社が参加する「鉄印帳」が好調だ。初版は各社ですぐに完売した。「Go To トラベルキャンペーン」よりも旅人の背中を押す仕掛けだ。鉄道では“集める”イベントが多く、人気も高い。成功する施策は、趣味の本質を捉えている。 - 「電車通勤」の歴史と未来 ITとテレワークで“呪縛”は解けるか
新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークが広がった。外出自粛から解放されたときにはどうなるか。それは「電車通勤」の在り方に関わる。長時間の満員電車が当たり前というのは“呪縛”だ。電車通勤が根付いた歴史を振り返ってみると……
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.