鉄道業界で大流行の「SDGs」 背景に見える、エコテロリズムへの危機感:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
東急で環境保護などをうたったラッピング車両「SDGsトレイン」が走り始めた。こういった取り組みが鉄道業界でも浸透し始めている。環境に配慮した車両は以前から開発されてきたが、あらためてSDGsを発信する背景には、環境保護を訴える若者などへのメッセージの意図がある。
「走ルンです」と呼ばれた、環境配慮車両
それにしても、17項目169の目標は、あまりにもメニューが多すぎてお腹いっぱいだ。ホテルの朝食ビュッフェだって30品目もあれば魅力をアピールできる。しかも全ては食べきれない。だからSDGsも全部入りではなく、各企業・団体が、自分たちが担うべきところを定めて取り組むことになる。
ただし、新しいことを始めるということではない。
例えば鉄道業界で「SUSTAINABLE」といえば、真っ先に鉄道車両のブランド「サスティナ」を連想する。JR東日本グループの総合車両製作所が作るステンレス車体の車両で、山手線や東急電鉄など採用事例が多い。この場合の「SUS」はステンレス鋼材とSUSTAINABLEを掛けている。語尾をティナで終わらせた理由は女神のイメージという。サスティナはステンレス鋼材の塗装不要、長寿命、軽量で省エネルギーとリサイクル性が高く地球環境に優しい。客室もユニバーサルデザイン、バリアフリーに対応する。
サスティナは2012年に発表されているから、国連のSDGs採択よりも早い。それだけではなく、鉄道業界は早くから省エネルギー、リサイクルに取り組んできた。例えば1992年にJR東日本が導入した次世代通勤電車「901系」は、リサイクル性を高めるため、また、新たな技術に迅速に対応するため、運用期間を短く想定して作られた。この車両はその後、量産型の209系電車として京浜東北線に導入され、以後の通勤電車の規範となった。
901系電車のコンセプトが「価格半分・重さ半分・寿命半分」とうたわれたため、使い捨てのイメージが面白半分に流布され、使い捨てカメラの「写ルンです」になぞらえて「走ルンです」と揶揄(やゆ)された。「写ルンです」もリサイクル性と低価格で「写真はカネがかかる」のイメージを覆した名作であり、「走ルンです」も今では褒め言葉と捉えて良さそうだ。ただし、環境アピールと新技術は旧概念に馴染んだ人々には誤解されやすい、という事例になった。
国鉄時代も中央線の201系電車(1979年)は省エネ電車と呼ばれたし、さらにさかのぼれば、日本の企業はオイルショックや光化学スモッグに始まる公害への取り組みを進めてきた。それらは全てSDGsの169目標のどこかにつながる。だからSDGsは、今までの取り組みの新しい名前にも見えてしまう。こうした取り組みに国連がお墨付きを与えたともいえる。
企業の社会貢献活動として、JR東日本の「ふるさとの森づくり」、サントリーの「鳥を大事に」などがあった。しかし、これらは直接的な利益に関係ないイメージアップ戦略として見られがちだった。SDGsはこれらに取り組む人々にも自信と誇りを与えるだろう。
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