鉄道業界で大流行の「SDGs」 背景に見える、エコテロリズムへの危機感:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
東急で環境保護などをうたったラッピング車両「SDGsトレイン」が走り始めた。こういった取り組みが鉄道業界でも浸透し始めている。環境に配慮した車両は以前から開発されてきたが、あらためてSDGsを発信する背景には、環境保護を訴える若者などへのメッセージの意図がある。
「日本一長い駅名」とSDGs
私がSDGsを初めて認知したきっかけは「日本一長い駅名の更新」だった。2020年3月13日、「嵐電」で親しまれる京福電気鉄道は、北野線の「等持院」駅を改名し「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」とした。音読数26文字、表記17文字で日本一長い駅名となった。それまでは音読数22文字の「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」(鹿島臨海鉄道)と「南阿蘇水の生まれる里白水高原」(南阿蘇鉄道)がトップ。文字数はディズニーリゾートラインの「リゾートゲートウェイ・ステーション」「東京ディズニーランド・ステーション」の17文字だった。
「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」は文字数でトップに並び、音読数でトップとなった。正真正銘の日本一長い駅名となった。しかし、日本一長い駅名は話題作りのためならいくらでも長くできるし、使われるときは略称で呼ばれるから、不毛な競争でもある。ちなみに私が「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」付近を散策して、通りがかった人に「あの駅はなんて呼ばれていますか」と訪ねたら、一言「えき」だった。呼び方は日本一短い「津」(JR・近鉄)の次に短く、そんなものかと笑ってしまった。
それはともかく、「等持院・立命館大学衣笠キャンパス前」としたきっかけは、京福電気鉄道と立命館大学の連携・協力協定締結だった。地域社会の発展および人材育成への貢献を目指し「学術研究、教育、健康、スポーツ、地域文化伝統等の継承と振興・発展に関する」「地域貢献」「魅力あるまちづくり及び観光振興の推進」「SDGs推進」「人材の育成」が主な取り組みとなる。ここでSDGsが出てきた。なんだこれは……と興味を抱いた。
調べてみると、鉄道業界にSDGsが浸透し始めていた。JR東日本は「ESGの取組み」で、SDGsへの貢献を目指すと記した。ESGは2006年に国連のアナン事務総長(当時)が「投資家の取るべき行動」として提唱した。「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」からなる言葉で、背景には企業経営にとって自然環境や地域社会の影響が大きく、「企業は環境汚染、労働問題、経済格差、自然破壊に対する責任を負うべき」という考え方がある。
大手私鉄最大規模の近畿日本鉄道を擁する近鉄グループホールディングスも「SDGsの取組み」を表明している。路線網第2位の東武鉄道も「社会環境報告書2019」の第2特集にSDGsを選んだ。京成電鉄は私塾の市進学園と組んでオンライン鉄道講座「全国の京成電鉄ファン集まれ! 親子で学ぶ京成電鉄のひみつ -Think SDGs-」を9月27日に開催した。小田急電鉄と神奈川県は7月に「SDGs推進に係る連携と協力に関する協定」を締結している。
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