190カ国で3億4000万ダウンロード Tinderが仕掛けるウィズコロナ時代のマッチングビジネス:「近づけない、集めない」 時代を生き抜く、企業の知恵(2/2 ページ)
コロナ禍の中でオンラインによるコミュニケーションに商機を見いだているソーシャル系マッチングアプリ 「Tinder」。190カ国、40言語に対応し、世界での総ダウンロード数は3億4000万回にのぼる。コロナ前に比べてTinder内でのメッセージ量は世界中で平均20%増加し、メッセージのやりとりが続く時間も25%延びたという。同社のキーマンに戦略を聞いた。
出会い系アプリからの脱皮
Tinderはこれまで出会い系アプリというイメージから逃れられなかった。今後の方向性として、恋愛だけではなく友人やビジネスパートナーを探すツールになるべく舵を切っている。
「Tinderが2013年に日本でリリースされたときには、友達探しやビジネスパートナー探しにも使われていました。ただその頃は、日本市場に対してマーケティングもPRもあまり注力していませんでした。その結果、出会い系に寄ってしまったのは事実です。私たちがもう1回、『こういう使い方もありますよ』と提案すれば、今後はTinderをもっと多様な形で使っていただけると考えています」(永田氏)
永田氏はコロナ禍の中でSWIPE NIGHTを実施した背景についても語る。
「今後はオフラインとオンラインの境目がなくなると考えられ、この流れを重視していくことになるでしょう。今の若者は、スマホで通話をしながら動画サイトを見るようなライフスタイルが当たり前になっています。どこに境があるのか分からない中でサービスを提供していくことになると考えています。
そして、そのアイデアの1つが今回のSWIPE NIGHTです。動画を見ながら遊びつつも、終わった瞬間に出会った人とコミュニケーションを取る。もしかしたらその先にリアルで出会うかもしれないですし、コミュニケーションツールとしてつながっていくのかもしれません。どう活用するかはメンバー次第で、そのつながりを提供するのがTinderの価値なのです」
同社の収益構造は今後、大きくは変わらないとしながらも、状況に合わせてサービス展開を修正する可能性があるという。
「現在、収益の95%が個人課金によるものです。Tinderをより便利に使っていただく機能を有料で提供しています。このビジネスモデルも今後Z世代などのユーザーのニーズによって変わりますし、修正していくことになると思います。私は、一瞬の出会いや言葉がその人の人生に大きな影響を与えることもあると思っていて、それが今の世代ではオンラインで起こる可能性が高いのです。空間の違いですね」
またジェニー・マケイブCCOは従来のプラス、ゴールド、ブーストという課金システムに加えて「プラチナム」というコースを新設する可能性にも言及した。
「詳細はまだ決まっていませんが、マッチ数を増やし、より会話の場を提供する形になると思います。ただ、有料会員に注力するというよりは、無料会員も含めたメンバー全員が使える機能の方に力を入れたいと考えています。日常的に、頻繁に使ってもらうことによってTinderをさらに広められるからです」
また、出会い系で危惧される安全性についてはユーザーが最も気になるところだ。
「米国で対策を強化してきましたし、何かあった場合は日本の警察にも情報を提供しています。また、メンバーの方からも助けてもらっています。メンバーの方から通知を受け取る通告機能というようなものもあり、行動履歴などを見てルールに沿っていなければ退会してもらう仕組みを整えています。こういったことは、これまでTinderとしてしっかりと世の中にコミュニケーションできていませんでした。これからはしっかりと説明していきたいと思います」(永田氏)
同社は日本独自に、18歳以上しか利用できない年齢認証も設けている。
「デジタルネイティブ」の水原希子 プライベートでも活用
『SWIPE NIGHT』を見ながら、Tinderのブランドアンバサダーを務めているモデルの水原希子氏は「スマホがブルブル震える〜!」と驚嘆の声を上げた。
ジェニー・マケイブCCOは水原のブランドアンバサダー起用の理由を語る。
「彼女は日本だけではなく世界で成功するために自分のネットワークを広げて、自分も成長していく体験をしている人だからです。彼女はダイバーシティーなど日本人が求めているもの、Tinderが提供しようとしているもの……つまり彼女がやろうとしていることはTinderもやろうとしていることなのです」
Tinderと水原氏の方向性がマッチしたことが、奏功したようだ。水原氏に「SWIPE NIGHT」を視聴した印象を聞いてみた。
「見たことがない、やったことがない新しいコンテンツでした。米国のトレンディー感というか『米国の今がある』という印象を受けました。『エンターテイン』されているのが分かっているのにドキドキしてしまうリアルさがあって、とても面白かったです。Tinderは出会い系アプリというイメージが強いかもしれないですが、私はソーシャルサービスの1つとして使っています」。
水原氏はイタリアのベニスに赴いたとき、現地の人に観光案内をしてもらいたいと思い、Tinderでメンバーを検索。すると、ある現地の若い女性とマッチングし、お勧めの場所を教えてもらったという体験談を教えてくれた。「これからは恋愛をしたいときだけではなく、仕事のつながりや新しいアイデアを求めて使う人がいてもいいと思う」と持論を語る。
水原氏はInstagramやTwitterを積極的に活用していて、そのきっかけは中学生時代に使っていたサービス『魔法のiらんど』だったという。話を聞いていくと、筆者の思う以上にデジタルネイティブで、SNSを日常的に使っていることが分かった。
「中学生のときはガラケーだったんですけど、Webサイトの作成ができる『魔法のiらんど』を見つけました。自分でWebサイトを作って、写真をアップしたり『ひとりごと』というコーナーを設けたりしました。それは今のTwitterのような感じなのですが、日々思ったことを発信していましたね。当時は、色を変えるだけでもプログラミングが必要だったのですが、少しずつ覚えながらアップしていました。今よりも複雑なことを自然にやっていましたよ」
また、コロナ禍でSNSの重要性が増していることを予感させるエピソードも教えてくれた。
「新型コロナで思うように人と会えなくなり、私の近くにいる人はSNSで何かしらアップをする機会が増えたと思います。不安な気持ちを共有したりしているんですよね。この前、久々に会った人がいるのですが、SNSで頻繁に情報を出しているから、しばらく会っていない感じが全くしなかったんです。より親密になっている感じがして、以前よりも話がしやすくなっていましたね」
オンラインでのユーザー争奪戦は激化
コロナ禍で3密を避けることが推奨され、「人と人が出会うこと」にビジネスの機会を見いだしてきたマッチングアプリのビジネスモデルにも変化が訪れている。特にZ世代とってはリアルとオンラインの区別はさらにあいまいなものとなるだろう。
Tinderは「SWIPE NIGHT」などを仕掛けることでオンラインでのコミュニケーションを活発化させ、コロナによって当たり前となりつつある「非接触」の環境においてもアプリを楽しんでもらうための工夫を施している。
同社がコロナ禍を経験して、今後商機を見いだしているのは、この「オンラインでのコミュニケーション」だろう。「SWIPE NIGHT」の実施の背景にはそんなもくろみが見え隠れする。
オンラインでコミュニケーションをする場に、Tinderのようなアプリがいかにして入り込んでいくのか。ユーザーの時間や興味を奪い合う争奪戦が、ウイズコロナの時代にはさらに激しくなりそうだ。(一部、敬称略)
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