日本郵政の「謝罪キャンペーン」が、新たな不祥事の呼び水になると考える理由:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
郵便局員による「おわび活動」がスタートした。「かんぽ生命」契約者の自宅などを局員が訪ねて、謝罪や説明を行うという。こうした行動に対し、「いいことだ!」と思われたかもしれないが、筆者の窪田氏は違う見方をしている。どういうことかというと……。
政府からの命令を忠実に再現
そんな組織への不満・不信感をさらに高めてしまうのが、(3)の「露骨な『お役所体質』にシラけた社員のモラルハザードが進行する」という要素だ。なぜ「信頼関係へ向けた約束」と言いながらも、国民や内部で働く郵便局員たちがあまりピンとこない「残念な内容」になってしまったのかというと、そもそも日本郵政グループの経営陣が、国民や郵便局員のほうを見ていないからだ。
では、いったい誰の顔色をうかがっているのかというと当然、総務大臣である。実は今年1月7日、高市早苗総務相(当時)は、不祥事続きの日本郵政グループの経営陣らに対してこんな注文を助けている。
「顧客第一の原点に立ち返ることが必要だ」
この方針は現在の武田良太総務相にも引き継がれている。10月2日の定例会見で日本郵政グループについて問われ、このように答えている。
「顧客本位のサービスを原点に帰り考え直し、信頼回復に徹底して努めてほしい」
さて、ここで先ほどの新聞広告などにデカデカと掲げられたメッセージを思い出してほしい。日本郵政グループが相次ぐ不祥事に対する改善策として出したのは「顧客第一主義」、そして「原点に立ち返る」ということだ。
もうお分かりだろう。今回の謝罪キャンペーンは、信頼を裏切ってしまったので何をすべきかと自分たちの頭で必死に考えてひねり出したものではなく、総務大臣から命じられたことをそのまま忠実に再現をしているだけに過ぎないのである。
確かにそうなるのも当然だ。日本郵政グループのかじ取りをしているとされる4人の経営陣のうち、3人は「官僚」の出身である。モリカケ問題でも明らかになったように、霞ヶ関で「優秀な官僚」と呼ばれる人たちは、政治家が「1」と言ったことから「10」を理解して動く事務処理能力がある。日本郵政グループはそんな官僚トップが「忖度(そんたく)」で回している組織なのだ。
つまり、民営化だ、収益力の向上だ、なんだといろいろ威勢のいいことを言ってはいるものの、日本郵政グループはいまだにコテコテの「お役所」であって、経営陣にはなんの権限もなく、総務大臣ひいては政府の方針に盲従する組織だという醜悪な現実を、この謝罪キャンペーンは図らずも浮かび上がらせてしまったのだ。
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