JR東日本がトヨタと組む「燃料電池電車」 “水素で動く車両”を目指す歴史と戦略:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
JR東日本がトヨタ自動車などと燃料電池を活用した試験車両の開発で連携する。業種の垣根を越えた取り組みは各社にメリットがある。JR東にとっては、次世代車両として燃料電池電車を選択肢に加え、最終目標のゼロエミッションを目指す一歩となる。
10月6日、JR東日本、日立製作所、トヨタ自動車は連名で「水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両『FV-E991系』を連携して開発することに合意した」と発表した。燃料電池自動車を実用化したトヨタと、鉄道の最新技術に長けたJR東日本が業種の垣根を越えて「環境に優しい新型電車」を作る。
「FV-E991系」。愛称は「HYBARI」(ひばり/HYdrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation)。「変革を起こす水素燃料電池と主回路用蓄電池ハイブリッドの先進鉄道車両」というけれど、鉄道ファンには懐かしい。「ひばり」は東北本線上野〜仙台間の特急列車の愛称だった
トヨタ「MIRAI」の販売にもメリット
トヨタ自動車はもともと2015年に燃料電池関連の特許実施権を無償提供していた(関連リリース)。そのトヨタがさらに積極的にJR東日本を応援する。確かに美談だけど、そこにはトヨタにとって、いや、日本にとって水素エネルギー社会の課題を解決する手掛かりがある。
水素エネルギー社会にとって鉄道が参加してくれたほうが心強い。理由は鉄道が持つインフラのチカラだ。燃料電池電車が実用化されると、水素エネルギーの需要が高まり、水素燃料の量産効果が現れる。技術進化が加速し、低コスト化を図れる。車両基地に水素充填設備ができるから、そこに水素ステーションを併設し、燃料電池自動車や燃料電池バスに「給水(素)」できる。
トヨタは水素ステーションの場所と営業時間を公開している(水素ステーション一覧)。全国的に要所を網羅しているようだ。しかし、各事業所を見れば、日中の短い時間帯しか利用できない事業所も散見される。その点、鉄道車両基地は車両が稼働しない時間帯に給油や点検を行うなど「早朝夜間も店が開いた状態」だ。既存の水素ステーションを補完できるはずだ。鉄道事業にとっても収益源になる。
トヨタが公開する水素ステーションリスト。10月15日午前8時45分頃のスクリーンショット。リアルタイムで稼働状況を確認できる。稼働時間の短さも気になる。クルマが少なければ燃料が売れないから、ニワトリとタマゴのような関係だ(出典:トヨタ自動車)
燃料電池自動車の普及には「いつでもどこでも水素を得られる」という環境が必要だ。移動範囲が限られたバス、配達用トラックは水素ステーション1つあれば導入できる。しかし自家用自動車となると、身近に水素ステーションがあるだけでは満足できない。
普段は近所しか走らないとしても、帰省などで遠くに出掛けることもある。ドライブ旅行もしたい。だけど、水素ステーションのない地域で燃料切れを起こしたら……とユーザーが不安に思うかぎり、燃料電池自動車は今の自動車のようには売れない。家庭で充電できるプラグインハイブリッド車(PHEV)のほうがマシで、ガソリンエンジンを搭載したハイブリッドが今のところ現実的だ。
しかし、鉄道の各路線で燃料電池車の導入が進み、車両基地を水素ステーションにすれば、その沿線の燃料電池車両ユーザーは安心だ。遠くに出掛けても、目的地付近を走る鉄道路線が燃料電池電車を採用していれば水素ステーションがある。一気に話を飛躍させるけれども、JR東日本が全ての路線で燃料電池車両を稼働させれば、同社の事業エリアである関東から東北地方にかけて燃料電池自動車のインフラが整う。その第1弾として、高輪ゲートウェイ駅に水素ステーションを開業した。
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