JR東日本がトヨタと組む「燃料電池電車」 “水素で動く車両”を目指す歴史と戦略:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
JR東日本がトヨタ自動車などと燃料電池を活用した試験車両の開発で連携する。業種の垣根を越えた取り組みは各社にメリットがある。JR東にとっては、次世代車両として燃料電池電車を選択肢に加え、最終目標のゼロエミッションを目指す一歩となる。
水素エネルギー電車の取り組みは2006年から
水素燃料電池はあらかじめ蓄えた水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を作る。化学反応後の生成物は水だから、二酸化炭素を一切出さない。燃料電池は軽油を燃やすエンジンとは比べるべくもなく、環境に優しい動力源だ。
燃料電池を動力とする自動車は、2014年にトヨタ自動車が乗用車「MIRAI」を発売し、18年にバス「SORA」を発売した。「MIRAI」は20年6月に生産終了し、20年末には新型MIRAIの発売予定が告知されている。新型は航続距離が約3割も伸びて、前輪駆動から後輪駆動になるという。燃料電池自動車は実用化され、さらなる進化の段階にある。
鉄道車両ではまだ実験段階だ。JR東日本は06年に「クモヤE995形(NEトレイン)」で燃料電池駆動車両の走行試験を行った。この車両はJR東日本にとって次世代エネルギーの実験車両だ。
クモヤE995形は、03年にJR東日本と鉄道総合研究所が共同開発したハイブリッド気動車「キヤE991形」の改造車だ。ハイブリッドシステムは日立製作所の技術が使われている。車体記号の「キ」は気動車、「ヤ」は事業用車両(非営業車両)という意味で、ディーゼルエンジンで発電し、蓄電池に蓄えて走行用モーターを駆動する。その後、この動力システムは07年に「キハE200形」として実用化され、小海線で営業運転を行っている。10年には観光列車用の「HB-300系」が製造され「リゾートしらかみ」「海里」などに使われている。
06年に誕生したクモヤE995形は、ハイブリッドシステムからエンジンを取り外し、代わりに水素燃料電池を搭載した。エンジンがなくなって電力だけで走るから、形式名も変わった。「クモ」は運転台とモーターが付いた車両という意味だ。
クモヤE995形は06年から08年まで試験走行を実施した後、08年にはまた改造を受けて蓄電池電車になった。パンタグラフが取り付けられ、架線から電気を取り込んで充電する。電化区間は電車として走り、非電化区間は蓄電池の電気を使って走る。この方式は14年に「EV-E301系電車(ACCUM)」として実用化され、栃木県の烏山(からすやま)線で運行している。
「EV-E301系電車」は直流電化区間用で、JR東日本グループの総合車両製作所が製造した。交流電化区間用には「EV-E801系電車」を17年から導入した。こちらはJR九州が開発した「BEC819系電車(DENCHA)」をもとに日立製作所が製造している。
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