1飲食店が多数の専門店を出すゴーストレストラン、「ズル」でなく業界を変革する訳:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
「ゴーストレストラン」が話題。1飲食店がネットデリバリーで複数の専門店を出す。「ズル」でないこの取り組みの真の意義とは。
業界の秩序揺るがす変化に
これからの時代は、最初から仮想店舗を前提に大幅にコストを引き下げた業態が大量出店してくることになり、5年以内に外食産業の業界秩序は激変するだろう。
出店に際してコストがかからないことから、副業あるいは脱サラで仮想飲食店を始める人も増える可能性が高い。仮想飲食店を出店したい人のために、キッチンを貸し出すビジネスも増えてくるだろう。
コロナ危機でテレワークが進み、オフィスが解約されるケースが増えている。テナントがいなくなった雑居ビルの1フロアに厨房セットを置き、時間単位で仮想飲食店に貸し出せば相応のビジネスになる。ここまでくると、仮想飲食店を運営する人は厨房施設すら自分で準備する必要がなくなる。従来の飲食店は、調理から顧客対応まで一括して対応していたが、今後は階層ごとの分業化が進み、より合理的な運営形態となるだろう。
外食産業で起こっている現象は、この業界だけにとどまる話ではない。現在、消費はコロナ前との比較で8割程度まで戻っているが、それ以上の回復は兆しが見えていない。多くの専門家が、2割減の状況が長く続くと予想している。
あらゆる業種においてネット対応を強化せざるを得なくなり、それは業界秩序の変化をもたらすことになる。だが新しくビジネスにチャレンジする人にとっては、大きなチャンスといってよいだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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