過去最高更新を続ける、キリン「本搾り」 “熱いファン”に支えられるブランド戦略:9年連続2桁成長へ(3/4 ページ)
キリンビールの缶チューハイ「本搾り」は、2019年まで8年連続で2桁成長しており、20年も過去最高を更新しそうだ。その背景には、熱いファンの存在がある。果汁とお酒だけという難しい製法を続けているのは、その特徴的な味わいにほれ込む顧客の期待に応えるためだ。
“無添加”のハードルをどう越えたのか
本搾りの最大の特徴は「香料・酸味料・糖類は無添加、果汁とお酒だけで味をつくっている」こと。小野寺氏は「そういったRTDブランドは他にはない」と話す。なぜ他のブランドではやっていないのか。
「自然の果実の味を引き出す」というと、いかにもおいしそうだが、現実的には果汁だけでおいしいお酒をつくるのは簡単なことではない。なぜなら、自然の果物には、甘さや酸っぱさだけでなく、苦さや渋さなどもあり、甘味料などを加えた方が飲みやすくなるからだ。添加物を使わずに作ろうとすると、「果実の味がダイレクトに出てしまい、その複雑な味が飲みにくさにつながる。また、『何も足せない』という開発の難しさもある」(小野寺氏)。調味料を入れられない料理のようなハードルがある。
そのため、原材料である果汁の品質が、そのまま商品の味につながる。味づくりでは、さまざまな産地の果汁を組み合わせて、自然な味わいが出るものを探すという。例えば、グレープフルーツフレーバーでは、世界から30種類のグレープフルーツ果汁を選んで組み合わせを試し、現在は7種類の果汁を使用している。果汁だけといっても、手間がかかるプロセスを経ているが、「そこが本搾りの生命線」(同)だ。
一方、そのようにつくられた本搾りは自然な果汁を感じられる味ではあるものの、飲みやすくするための甘みなどはないため、「みんなが一口目から『おいしい!』と感じる味にはなっていない」(同)。特に、レモンやライムは酸っぱさを強く感じる味になっている。ただ、そういった自然の果汁感がある、他に代えがたい味わいにだんだんとはまっていく人が多いという。
その特徴から、本搾りユーザーの年齢層は20代が圧倒的に少ない。さまざまな食を経験し、味にこだわりも持っている30代後半〜40代が主な購入層だ。自然な味わいは、甘さが際立つ商品と比べて、さまざまな食事にも合わせやすい。
2020年のマーケティング戦略では、そういった“本質的な価値”を、本搾りの味わいを求めている人に伝えることを目指している。
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