いまさら聞けないCBDC(2) CBDCがあれば銀行預金はいらない?(2/4 ページ)
世界各国で中央銀行デジタル通貨(CBDC)への関心が高まっている。第1回では、CBDCが登場したときに、QRコード決済のPayPayのように利用されるイメージをまとめた。ただし、CBDCが競合するのは決済サービスだけではない。金融の基盤でもある銀行にはどんな影響があるのか。
デジタル取り付け騒ぎ
CBDCの設計にあたって銀行への配慮が必要なのは、銀行には倒産の可能性があって預金が失われる場合があるのに対し、CBDCは現金同様に日銀が発行するために絶対安全な資産だからだ。銀行に倒産のうわさが流れた場合、いわゆる「取り付け騒ぎ」が起こり、預金者が窓口やATMに殺到する。
1997年の北海道拓殖銀行の破綻の際には、解約を求める預金者が列を作った。同じく97年には紀陽銀行に起きた経営不安の風評被害により、取り付け騒ぎが発生し、数日で3000億円の預金が流出したという。銀行は預かったお金のすべてを手元に保管しているわけではなく、風評であっても取り付け騒ぎが発生すれば、実際に破綻してしまう可能性もある。
窓口やATMでは、預金を引き出すために物理的に対応する必要があるため、対応する時間の余裕もある。しかし、銀行口座からネット経由で引き出せるCBDCならばどうか。短時間のうちに預金が大量にCBDCにシフトし、「デジタル取り付け騒ぎ」が起きかねない。
また、取り付け騒ぎまでいかなくとも、銀行預金からCBDCへの預金移動が起きれば、銀行の貸し出しの原資が減り、貸出機能が低下するおそれがある。銀行の重要な役割である金融仲介機能の低下(ディスインターミディエーション)が懸念されるわけだ。
CBDCには入金上限が?
こうした事態を防ぐため、CBDCには入金額の上限が設けられると見られる。実際、CBDC導入に踏み切ったバハマ中銀の「サンド・ダラー」では、保有額と取引額のそれぞれに上限が設けられた。オンラインで発行できるウォレットでは、保有上限は500ドル(約5万2500円)、対面で発行するウォレットでも5000ドル(約52万5000円)となっており、小口の決済に使うには十分でも、資産の保管先としては使えない金額だ。
日本でCBDCが発行された際に、仮に上限が5万円に制限されたとしよう。1億人が上限まで持ったとしても5兆円。これは、現在の現金発行残高108兆円の5%であり、預金通貨を加えたいわゆるM1(900兆円)に対しては0.6%でしかない。「現金の5%が仮にCBDCにシフトしても、それほど大きな影響はないだろう」と中島氏は試算する。
また、銀行口座からCBDCに預金を引き出して使えるようになることは、銀行にとって危険なことばかりではない。「銀行は現金を取り扱う必要がなくなるので、メリットのほうが大きい」(中島氏)のだ。
野村総研は、現金の管理にともなう社会コストを年間約1.6兆円と試算している。各銀行もATMの統廃合を進め、引き出し手数料を値上げし、キャッシュレス化にかじを切っている。CBDCの登場は、銀行にとって大きなコスト削減につながる可能性がある。
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