「通勤」は減っていく? 東急の6700人アンケートから読み解く、これからの鉄道需要:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
東急は、アプリを通じて6760人に実施したアンケート結果を発表した。新型コロナの影響で在宅勤務などが広がり、鉄道の需要は低下。しかし、今後も定期券を更新する人は多く、転居しようとする人も少ない。通勤需要は元通りには戻らないが、ある程度回復しそうだ。
不動産の流動は少ない
・項目5「転居の意向」 9割以上が「転居しない」
在宅勤務の悩みどころは自宅の作業スペース不足だ。部屋数の多い住まいへの転居傾向があるという見方もある。しかし東急のアンケート結果では93%が「転居しない/考えていない」と回答した。ここには、在宅勤務は一過性で今後は元に戻ると考える人、自宅が在宅勤務に対応できる人、自宅は在宅勤務に適さないけれど、最寄りのサテライトオフィスを契約すれば対応できる人が含まれる。リモートワークが不動産業界に与える影響は少ない。
不動産業界では東急沿線というブランド力を高く評価している。東急沿線の住宅環境の満足度が高いとも言えそうだけど、他社の同様の調査を見ないとなんとも言えない。あるいは持ち家率が高く、不動産の流動性が低いかもしれない。
「コロナ禍が原因で転居した/転居を考えている」人は全体の6.2%となった。転居志向は少ない。少数派の転居意向者のなかで、横浜市・川崎市を選んだ人は、引き続き東急沿線に住み替えたい人が多いと思う。また、東京23区でも世田谷区・渋谷区・品川区・大田区は東急沿線だ。東急沿線を離れる意向がある人は、6.2%のなかで約6割。アンケート回答者全体の約3.8%になる。つまり、ほとんどの人々が転居を検討せず、転居を検討する人でも東急電鉄沿線を選ぶと考えられる。これは「通勤需要は減らない」という考察を裏付ける。
東急によると「渋谷駅周辺のオフィス需要は低下しておりません。一方、当社の法人企業向け会員制サテライトオフィス事業『NewWork』は郊外店舗が好調です。新規入会希望の問合せ数も増加傾向にあります」とのこと。通勤需要は固く、一方で通勤しなくなった人にもサテライトオフィスを提供する。これで沿線価値はますます高まるだろう。
田園都市線沿線在住の私からみると、むしろコロナ渦以前の通勤状況が過熱気味で、今後はほどよい通勤需要になるのでは、という期待もある。
関連記事
- リモートワーク普及で迫りくる「通勤定期券」が終わる日
大手企業などがテレワークの本格導入を進める中で、通勤定期代の支給をやめる動きも目立つ。鉄道会社にとっては、通勤定期の割引率引き下げや廃止すら視野に入ってくる。通勤に伴う鉄道需要縮小は以前から予想されていた。通勤しない時代への準備はもう始まっている。 - 「電車通勤」の歴史と未来 ITとテレワークで“呪縛”は解けるか
新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークが広がった。外出自粛から解放されたときにはどうなるか。それは「電車通勤」の在り方に関わる。長時間の満員電車が当たり前というのは“呪縛”だ。電車通勤が根付いた歴史を振り返ってみると…… - 東急の鉄道分社化で「通勤混雑対策」は進むのか
東急電鉄が鉄道事業を分社化すると発表し、話題になった。この組織改革は「混雑対策への大きな一歩」になるのではないか。対策に迫られている田園都市線渋谷駅の改良につながるかもしれない。なぜなら…… - 「東急8000系」誕生から50年 通勤電車の“いま”を築いた、道具に徹する潔さ
東急電鉄の8000系電車が、2019年11月に誕生から50周年を迎える。画期的な技術を搭載し、それらが現在の通勤電車の標準となった。“道具”としての役割に徹した8000系の功績を書き残しておきたい。 - 「急行電車の混雑」「エスカレーター歩行」はなぜ生まれるか リニアの必要性と“移動”の意味
急行電車の混雑、歩きスマホ、エスカレーター歩行の理由は、数分であっても移動時間を無駄だと考える人が多いから。移動時間を短縮の工夫が重ねられてきたが、テレワーク普及によって移動しない選択肢も出てきた。しかし、移動が必要な場面はなくならない。価値が高い仕事や行動にこそ、リニアが必要になる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.