「70歳まで会社にしがみつく人」が結局、会社を弱体化させてしまうワケ:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
定年を引き上げるニュースが相次いでる。現行の60歳から65歳にする企業が増えてきているわけだが、筆者の窪田氏はこの動きに懸念を抱いている。「長く働くことができていいじゃないか」と思われたかもしれないが……。
若手の昇進や昇給が先送り
これまでの一般的な日本企業のサラリーマンピラミッドでは、50代が「あがりの見えたベテラン社員」で、30〜40代が「中堅」という扱いだった。しかし、ここに60代という新たな階層が上乗せされることで、彼らが「あがりの見えたベテラン社員」になって、50代が「中堅」、30〜40代が「若手」という感じで、キャリアの後ろ倒しが起こる。つまり、シニア人材の賃金を捻出するために、若手の昇進や昇給が先送りにされてしまうのだ。
ご存じのように、日本は他の先進国と比べて際立って低賃金であり、それが原因で「結婚もできない、子どもを持つなんて貧しくなるだけ」というムードを生み、少子化へのまっしぐらという状況を生んでいる。
もちろん、会社側がシニア人材をうまく活用して、さらに大きな成長を遂げていければ、こんな心配はまったくない。が、コロナ禍の中、高い給料をもらいながらもリモートワークもうまくできない「働かないおじさん」があぶり出されたように、現状でもシニア人材をうまく活用できているとは言い難い。企業で長く働いてきたベテラン社員は、管理職に収まるか、管理部門などで後進の育成や若手のサポートがメインとなって、「自分で稼ぐ」ことに縁遠くなるケースが多いからだ。
そこに加えて、シニア人材の活用にはもうひとつ高いハードルがある。それは「プライド」だ。11月8日に配信されたマネーポストの記事の中に、2年前に大手食品メーカーで定年を迎え、雇用延長した元管理職の63歳男性のぼやきが掲載されている。以下に引用させていただこう。
「定年後、5年の腰かけのつもりで雇用延長したら、若い社員がやるような給与計算をやらされたうえに、元部下の女性からあれこれと業務を指示されてストレスがたまりました。モチベーションを失い、2年ちょっとで退職しました」(マネーポスト 11月8日)
自分に置き換えてゾッとした管理職の方も多いのではないか。年功序列のサラリーマン社会に頭までどっぷり浸かって40年以上も生きてくると、人はどうしても「これだけの年齢とキャリアを積んだ自分に、若手がやるような仕事を振るんじゃねえよ」というプライドに支配されてしまうものなのだ。
それは裏を返せば、これからの企業は、60代の社員たちの膨れ上がった自尊心を傷つけることがないような「心のケア」をしながら働いてもらわないといけないのだ。
関連記事
- なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - 「オレは絶対に悪くない!」という“他責おじさん”が、なぜ出世するのか
「オレは絶対に悪くないからな!」――。会社の幹部や上司の顔を思い出して、「いるいる。ウチの会社にもたくさんいるよ」と感じた人もいるのでは。なぜ、他人のせいにする人が出世するのか。その背景を調べてみると……。 - なぜ「スーツみたいな作業着」をつくって、しかも売れているのか
スーツのような作業着「WORK WEAR SUIT(ワークウェアスーツ)」が売れている。製造しているのはアパレルメーカーでもなく、作業着メーカーでもない。水道工事などを行っている会社がつくったわけだが、なぜこのような商品を開発したのか。その狙いを聞いたところ……。 - 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - 【独自】ワタミ「ブラック企業に逆戻り」騒動 内部取材で明らかになった、衝撃のウラ話を暴露する
「ワタミの宅食」で起こった残業代未払い問題。それだけでなく資料改ざんやパワハラなど、「やっぱりワタミはまだブラックだったのか?」と思わせるような実情が告発された。本当にワタミはブラック企業へ回帰したのか。内部取材を敢行すると、思わぬ事情が見えてきた。 - 巷で“スーツ離れ”が起きているのに、なぜビジネスリュックは好調なのか
テレワークを実施する企業が増えたので、オフィスに足を運ぶ人が減った。となると、スーツを着ることが少なくなり、革靴を履かなくなり、カバンも不要になり……。などと想像してしまうが、ビジネスリュックは好調に売れているという。その背景に迫ってみたところ……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.