中国が覇権奪取に利用? 「QRコード」がコロナ禍で世界から注目されるワケ:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
G20サミットで中国の習近平国家主席が「QRコード」に言及。新型コロナ対策などで主導権を握ろうとしている。日本で生まれたQRコードは、コロナ禍を機に、中国に限らず世界で利用が進む。感染対策や非接触サービスをきっかけに、利用範囲が広がっていきそうだ。
日本では利用範囲が拡大
また世界的に、QRコードで独自の感染者管理の試みを行っているところは少なくない。メキシコの首都メキシコシティでも、11月から商業施設の利用者にQRコードで来店記録の登録を義務付けている。その施設で感染者が出た場合に利用者を追跡し、衛生当局が感染者を管理できるようにしている。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州でも、11月23日から、カフェやレストラン、美容院、ネイルサロンなどで、個人情報を登録したQRコードなどを使ってホテルのように「チェックイン」することを義務付けている。新型コロナに感染したり、感染者と接触したりした人の動きを、大量かつ迅速に把握するためである。顧客はそのためのアプリをダウンロードして、お店に入るときにQRコードにかざしてチェックインする。そこで記録された個人情報は、28日後には自動的に消去される仕組みだ。
ニュージーランドでも8月から、同じようにQRコードによるチェックインが義務付けられている。
こうしたところから、新型コロナが落ち着いたあとでも、QRコードの多様な利用が促されていく可能性がある。QRコードはお店など導入側もコストが安く済むために、取り入れやすいという特徴もあり、それも普及にはプラス材料である。
そしてすでにQRコードが広く使われている日本でも、その利用が拡大しつつある。例えば、国として取得を促しているマイナンバーカードについて、平井卓也デジタル改革相は、まだカードを申請していない約8000万人に向けてQRコードで申請ができる交付申請書を送る方針だと発言している。
また電車のホームドアと車両のドアの開け閉めをセンサーとQRコードを使って自動で行うシステムも開発されており、都営地下鉄浅草線で導入され、JR東海でも実用実験が開始される。
全日空(ANA)は最近、QRコードを使ったスマートフォンアプリのサービスを開始すると発表している。ANAのマイレージ会員(約3700万人)を中心に「ANA Pay」という決済サービスを提供し、日常の買い物でマイルがたまるようになるという。
とにかくQRコードが世界中で存在感を増していることは間違いなさそうだ。
2020年を混乱に陥れた新型コロナは、そのインパクトゆえに世界のビジネスの在り方を一変させてしまう可能性が強い。そしてその変化を、QRコードも支えることになりそうだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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