返礼品は「高級レストラン食事券」や「温泉利用券」 ふるさと納税に新たなブーム、企業のメリットとは:長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/6 ページ)
ふるさと納税の返礼品に“体験型”が増えている。「洋服仕立券」「レストラン食事券」「温泉利用券」などが登場。提供する企業や農家が享受するメリットとは。
税金の流出は見逃せない
東京都八王子市の高尾山麓発祥で現在も本社があるうかいは、八王子市のふるさと納税返礼品として、洋食・和食のレストラン食事券を、2020年7月から提供し始めた。
同社の鉄板料理「銀座うかい亭」は、17年11月にトランプ大統領と安倍晋三前首相が夕食会を行った店。八王子市ではその知名度に着目し、市内の「八王子うかい亭」食事券を返礼品にできないか、オファーした。うかいは、是非地元に貢献したいと応えた。
12万円の寄付額で、2人のコース食事券(発行日から半年間有効、要予約)などがある。「うかい亭」はステーキを中心とする洋食なので、和食もということで「うかい竹亭」の食事券も提供している。
同社・広報によれば「好評で、予想以上に使ってもらっている」と手ごたえは上々。うかいの返礼品は八王子まで行かないと体験できないが、紅葉の名所・高尾山もあり、密を避けた観光が可能だ。
ふるさと納税の返礼品は、寄付額の3割・地場産品が原則であった。しかし、法制化されていなかったので、大阪府泉佐野市のように、アマゾンのギフト券を返礼品にして全国一の納税額を集める自治体が出てきた。今は法改正され、3割・地場産品が厳格化されている。
都市部に集まりすぎる税金を地方に配分するのが、ふるさと納税の趣旨であるが、東京都23区の自治体はこの制度そのものに反対してきた。渋谷区では、ふるさと納税による流出額が26億〜28億円となり、見過ごせない状態になっている。そこで19年から、知恵を絞って、返礼品を開発して応戦する方向に舵を切ったばかりだ。
地場の畜産品、魚介類が皆無なので、渋谷区の魅了を発信するとなれば、自ずと体験型の返礼品が主力となる。渋谷スクランブルスクエア展望施設「渋谷スカイ」利用券や、区内のカフェで使える10枚つづりコーヒーチケットなどの返礼品があり、まだまだ新しく増えていく予定だ。
東京・多摩地区のベッドタウン、八王子市も体験型返礼品を重視。前出のうかい食事券の他、芸者衆の待合を改築した「すゞ香」にて、懐石料理と芸者さんのお座敷体験を提供している。このように、織物で栄えたかつての八王子の粋を伝える返礼品もある。
一方、地方が体験型を提供する理由は他にもある。白糠町ではエゾシカ肉の普及を目指している。白糠町は道東、釧路市に隣接するが、雪が少なくエゾシカの越冬地になっている。1997年には3億5000万円の食害を被ったほどだ。白糠町では、エゾシカ肉をジビエとして流通させることに苦慮し、ふるさと納税の返礼品を活用して、東京のレストラン13店に提供する体制を構築した。エゾシカは高タンパク・低脂肪の赤身肉で、肉の優等生である。海産物も豊富なので、地場産品でコースが組める。生産者とレストランを直結する販売ルート開拓へとつながっている。
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